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あくまで真摯に、だけど軽い声色で。古賀先生の注意をにこやかにかわすことだけに標的を絞り、反省の弁をそれらしく返してみる。尤も《それらしく返してみる》とか考えている時点で、全く持って反省していないことが浮き彫りになっているのだが……。私のあっけらかんとした返答に言葉を詰まらせる古賀先生など、お構いなし。教室のあちこちで、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「あはは、佐藤ちゃんらしいー」
「確かに昼休憩の後の授業って、お腹いっぱいで眠たくなるよなあ」
「そうそう」
試験前に教科書を一気に進めるべく、根詰めていた反動のだろう。いつも以上にフリーダムな会話が、古賀先生の存在をガン無視でポンポン飛び交う事態に思わず苦笑しそうになってしまう。とはいえ、私は全ての引き金を引いた元凶として、絶対に笑ってはいけないのだ。ハッキリ言って、見た感じのイメージだけで聞いていないと注意されることより、絶対に笑えない立場で展開される地味に笑える展開に身を置く方が何倍も辛い。
とはいえ、それは見た感じのイメージだけで、先生方が判断したくなるような疑惑をばら撒いている自覚があるからに他ならないだろう。
「気持ちが分からない訳ではないが、しっかり聞いておきなさい」
「はーい」
どうやらクラス全体がお祭り騒ぎに陥ることを避ける方向に舵を切ることにされたらしい。古賀先生は私への注意を早々に切り上げ、黒板の問題解説に戻られる。
そんな古賀先生の対応を確認しつつ、前の座席に座る優希(ゆうき)が声を掛けてくる。
「紫乃(しの)、ラッキーだったね。古賀先生、説教むっちゃ長いらしいから」
「え? そうなの?」
まだ入学して三ヶ月。
部活にも入っていない私は、先生たちの性格を十分に把握しきれていない。
だからこそ、そんな相手にある種の喧嘩を売っていた事実に卒倒しそうになってくる。でも、それは古賀先生に怒られることを恐れてではなく、目に見える回避ポイントを見落としていた事実に気付いたからと言えるだろう。
「そうそう。だからこそ、皆んな古賀先生の気を挫いて、紫乃を助けようとしていた訳で」
「そうなの!?」
クラス一丸となって、全力でフォローしてくれるとか有り難すぎる……。 とはいえ、そんな義理人情が出会って三ヶ月の間柄で、果たして本当に生まれるものだろうか。と思っていると、優希から一気に種を明かされる。
「まあ、紫乃を助けようとした気持ちも本当だけどさ。たぶん、それ以上に皆んなの鬱憤も溜っていたんだと思うよ。古賀先生、言い方がねちっこいからさ」
「ああ……」
古賀先生の悪評を耳に入れてこそいなかったとはいえ、古賀先生が生徒たちに煙たがられる理由は素直に頷ける。だからこそ、私は大きなため息を吐くことしかできなかった。
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