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本気で私が言いたい意味が分からずキョトンとしている佐倉くんを見て、本気で同情してしまう。学年トップの成績を誇る切れ者である彼が、そこまで追い詰められる状況を目の当たりにして、涙がちょちょ切れてしまいそうだ。
とは言え、ここで同情するのは最悪の一手に他ならない。後々に続く気恥ずかしさなどを加味するならば、あっけらかんと第三者だからこそ気付いた体で助言するべきだろう。
「えー。だって、部外者である私の点数などを一切問わず、佐倉くん本人の指導力のみに重点が置かれてる。つまり、敢えて嫌らしい言い方をするなら、私をダシにして指導の練習をこなすためのお膳立てを用意したに過ぎなくて、全ては佐倉くんが指導することにどのくらい向き合い腕を向上させるかが肝になるわけで」
「……」
「私が本当に非凡だとしたら、佐倉くんの指導バリエーションがこれ以上生まれないというだけ。つまりは、今の実力以上の技を磨く機会もないまま評価されるだけに過ぎないと思うんだけど……」
「…………」
確かにケロッと語ることのメリットは大きい。だが、一歩間違えれば『所詮、他人事としか考えていない』と無神経に捉えられかねない諸刃の剣である事実も理解しているからこそ、慎重に攻めたいところでもある。しかし、佐倉くんと私のパワーバランスを考えれば、やはりこれ以上にベターな策を瞬時に思い浮かぶこともないわけで……。ドキドキしつつ、佐倉くんの反応を伺ってみる。
「……違うかな?」
「いや、合ってる。……と、思う」
佐倉くんはようやく相槌を返し、再び黙り込んでしまう。
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