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僅かに顔色が変化する様子から察するに、どうやら核心に触れることが出来たらしい。それと同時にこれ以上、踏み込まれたくない領域であることを意図せず示した事実も大事にしたい。
私はゆっくりと心の中で三秒数え、出来るだけ優しい声色で佐倉くんに話し掛ける。これ以上、警戒されては元も子もないのだから……。
「じゃあさ、今度はこっちを教えてくれないかな?」
「……え?」
「全く問題文とかすりもしない頓珍漢な英訳にしかならないんだよねえ」
そう言って、補習課題に入っていた英語プリントをひらひらと見せてみる。
その中に書いている走り書きは……《娘専用の医者を作り上げた》。神妙な面持ちで浮かない表情をしていた佐倉くんも一家に一台まるで改造人間マシーンでもあるかの如く訳された頓珍漢な文章に思わず吹き出している。
「……それ、本気なの?」
「だって、《made》だよ?」
「いや、料理みたいに目に見えて作ること以外にも使うから。どんなマッドサイエンティストなファミリーになってるの……」
クスクス笑いつつ、向き合ってくれる佐倉くんの表情は教室で見る穏やかなものに戻っている。そんな佐倉くんの正論的ツッコミを軽く受け止めつつ、和やかに初日の補習は終了する運びとなった。
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