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優希の発言に頭をもたげていると、優希は優しく頭を触りながら語り続ける。
「落ちこぼれと優等生のインパクトがある以上、それ以上でもそれ以下でもない関係である限り堂々としてればいいじゃん」
「いや、でも……」
ケロッと言い切る優希の意見は全て正論と分かっている。それでも煮え切らない返事しか出来ないのは、いったい何を恐れているからだろうか。
「それともそれ以外の感情とかあるわけ?」
「いや、それは……ないけど」
自分自身も掴みきれない気持ちのカケラを集めて、優希の質問一つずつに答えてゆく。明け透けに尋ねる優希にデリカシーを求める方が酷だろう。とは言え、優希自身が尋ねる際はいつだって下世話な感情ではなく親身な心配が原動力になっていることも知っているからこそ、腹を立てることなんて一切なかった。
「疚しいことがない上で、先生公認の補習仲間を一方的に避ける方がよっぽど心象が悪いと思うけど」
「……優希」
力強い眼差しで言い切る優希に対して、震えた声で呼び掛けるだけで精一杯だ。そんな私を確認した後、不意にいつものトーンに戻して会話を続けてゆく。
「だけど、やる気を出した紫乃が留年リーチから遠ざかる分は素直に嬉しいかな」
「優希……」
「というわけで、完全燃焼目指して試験期間をとりあえず乗り越えよ!」
優希の言葉を聞き、気持ちを切り替えて集中し始めた途端。試験の開始十分前を告げる予鈴が響き始めていた。
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