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おかしな世界に来てから、一週間が経つ。
翔太は庭にある椅子に座り、ひなたぼっこをしていた。そもそも陽向に当たる行為を積極的にした事がない。日光がこんなにも気持ちのいいことを初めて知った。
着ていたシャツはリズ爺に洗われ、青空をバックに、そよ風で揺れていた。
一見能天気そうでも彼の内面は動揺していた。
一週間前、翔太の属するチームで抗争があり、リーダーの結城がリンチ攻撃を受けた。高校へも行かず、ふらふらしていた翔太に居場所を作ってくれた結城の傷ついた姿に、居ても立ってもいられず見舞いに行った病院を飛び出した。
復讐しようと相手先へ飛び込んだまでは覚えている。途切れた次の記憶は、リズ爺の家であった。どうやってここに来たか全く覚えがない。
しかも簡単に帰れそうにないのが厄介だった。
元々片親だった翔太は、母親が蒸発してから親戚宅を転々としていた。中学半ばで家を飛び出して以降、その日暮らしを続けている。
だから、彼を心配する家族も友達もいない。
ただただ結城が気がかりであった。結城にはカノジョがいたから、大丈夫だと思うことしかできない。
翔太にとって幸いなことは、リズ爺がいい爺さんであることだった。居心地も悪くなく、翔太はリズ爺に懐きはじめていた。
彼の良いところは順応性が高いことと、素直なところである。
「ショータ、そろそろ外出するぞ」
「はーい、今行く」
ぴょんと椅子を降りて、庭を仰ぎ見る。
うっそうと茂る森の外れに、リズ爺の家があった。昔に建てられたログハウス風の小屋には、苔がびっしり生え、世界の片隅でひっそりと息をするように森と同化していた。電気は存在しない、自給自足の生活だ。
ここでリズ爺は薬草を採り、干したり細かくして王宮へ運んでいる。
「え……これに乗るの?トカゲじゃん。気持ちが悪い」
「馬鹿言え。こいつは優秀だぞ。よく働くんだ」
「ええぇぇ……」
馬に乗るのかと思いきや、大きなトカゲが引く荷台に乗れとリズ爺は言う。
文句を諦めて、翔太は渋々乗り込んだ。
大量の薬草に包まれて、トカゲはゆっくりと出発する。これから2人で城へ向かうのだ。
「お前は悪目立ちするといけないから、これを被っとけ。一人で行動するのは禁止だ」
「ふぁーい……ん、ちょっと寝る」
リズ爺曰く、ここはみんな犬人間らしい。嘘のようなホントの話で、毛の色は十人十色である。
翔太は、人と同じが嫌で髪の毛を白く金髪にした。ひよこみたいだと回りに言われたが気にしていない。
ここに来てから、身体が重くてしょうがない。
空気が合わないのか、少々熱っぽくもある。
リズ爺の帽子を深く被り、翔太は目を閉じた。
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