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昼寝から覚めた翔太は目を見張った。
リズ爺の言った通り、町は獣人間で溢れている。見渡す限り、犬人間、時々猫人間が闊歩していた。
翔太が寝ているうちに、視界が180度様変わりしていた。緑と茶に囲まれた山奥と違い、石膏でできた壁に囲まれて街全体が白く見える。結城さんの元カノが行きたがっていた旅行パンフレットみたいだと、翔太は思った。
抜けるような青空と白い建物は、とても浮世離れしていて、自分が異世界にいることを嫌でも実感してしまう。
一行は、薬草を店へ卸しながら、城を目指していた。その度にトカゲを止め、リズ爺は店主と店先で世間話を始める。爺にとっては次の注文に繋がる大切な営業でも、翔太は二件目で飽きてしまった。待ち時間が長く感じてしようがない。
リズ爺が話に夢中になっている隙に、翔太はこっそりと荷台から抜け出した。
熱っぽさは治り、身体は幾分か楽になっている。
誰も小さな翔太のことは気にしない。山小屋ではリズ爺に監視されていたから、久しぶりの一人に心が踊った。
(しっぽ、しっぽがふさふさだな……)
小さな翔太の目線少し下に尻尾がちょうど目に入る。それは生き物かのごとく、ゆらゆらと揺れていた。顔が違うのと一緒で、個々で特徴が全く違う。太いのや、細いもの、毛質もそれぞれだ。
面白い動きの尻尾を追うのに夢中になっていたら、遠くの路地に一つ、翔太の好みに合う立派なふさふさを発見した。
金色のそれは見るからに輝いており、いつか動物園で見たライオンに似ていた。思わず手を伸ばして触りたくなる。
翔太は無意識のうちに尻尾の持ち主へ近づいてしまっていた。もう少し届くところで、石につまずき尻尾へダイブする。
「ふがぁっっっっ…………」
顔全体に肌触りの良い毛が触れた。勢い余って持ち主へ翔太ごと突っ込んでいった。
「っ…………なんだ、お前は」
金色の尻尾の持ち主はリズ爺より遥かに大きい。逞しい身体付きと、腰に剣のようなものを刺している。黄金の長い髪は後ろで1つに結わえ、まるで勇ましい獅子のようだった。
「…………あ……ごめん……なさい」
相手の威厳に翔太の口から謝罪の言葉が自然と出た。
そして、衝撃で落ちた帽子を拾って被り直し、出来る限りの愛想笑いをする。こういう時は、後退りをして走り出せば、どうにかな……らなかった。
「見かけない風貌だな。子供かと思ったが、違う」
「ひえっ……」
襟足をぐわしと掴まれる。
翔太は身体ごと宙に浮いていた。
「しかも、わが国の住人ではなさそうだな。お前は誰だ」
「誰って、おめーこそ誰だよ……」
鋭い眼差しが翔太を捉え、近距離から離れない。威圧的に迫られても、翔太はビクともしなかった。むしろ、視線は睨み返したまま、外さない。
いきなりの強引なやり方に、翔太は腹が立っていた。
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