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どれくらい寝ていただろうか。
アデルが目を覚ますと、翔太が訝しげに自分を覗き込んでいた。
「よく寝てたね。死んでるかと思った」
「お前こそ、調子はどうなんだ」
「そこそこ。寝たらスッキリするんだけど、暫くしたらまた怠くなるの繰り返し」
「無防備に寝すぎだ。襲われたらどうするんだ」
「王子じゃあるまいし、命を狙われることは無いよ。俺って、見た目が変でしょ。ここでは特に。だから尚更心配ない」
先程の青白さよりは、幾分か血色が戻っている。翔太は手を伸ばし、枕元にあった水を美味しそうに飲んだ。
毛も肉球もない指は折れそうに細く見える。
「お前はどこから来たのだ?」
恐らく何度もされただろう質問を翔太へぶつけてみた。翔太は嫌な顔一つせずに答える。
「うーん……こことは全く違うところ。あんた達が言う毛も耳も尻尾がない人で溢れて、機械がある」
「きかい……?」
「そう。小さな鉄を集めた便利なやつ。楽する為なら、頭をフル回転させて道具を作る。自分達だけで生きてきたみたいに大きな顔をして、昔からあるものをどんどん破壊していく。そんな世界から来た」
「ほーぅ。そこは生きていて楽しいところか?」
アデルから出た自然な疑問に、翔太はきょとんとした。
「考えたこと無かった。楽しい時もあるよ。だってそこしか知らないから、みんな必死に生きてくしかない」
「必死に生きねばならない世も辛いな。この国は、穏やかな国になってほしいと願っている。ショータもゆっくりしていくといい。身体が良くなったら、国を案内してやろう」
「いつ治るか分かんないから、今すぐ行こうよ。ちょうど退屈してたんだ。キノが居ない今のうちに……うおっと……」
布団を剥ぎ、パジャマ姿で立ち上がった翔太が裾を踏んでよろけた。咄嗟にアデルが支え、細い身体を抱き上げる。
その時、今まで嗅いだことのない甘い香りが鼻腔をくすぐったのだ。
匂いとしては、弱い。だが、確実にアデルを捉えて離そうとはしない。大量に吸い込んだら、酔って歩けなくなるかもしれない。
(なんなんだ、今のは……)
最初は麻薬かと思った。翔太には中毒者の傾向がない。挙動もしっかりしている。
「おい、どうかしたのか?まだ眠たいとか?」
「いや……何でもない。城の屋上を案内しよう。国が一望できるぞ」
「マジで?見てみたい」
多分、気の所為だ。アデルは屋上へ行くため、翔太の背中を軽く押した。
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