序 わたしのはつこい

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「トモちゃんは名探偵さんなんだねえ」 「えっ」  予想になかった言葉に目を見開いた。  驚いている知成の事など知らず、少女は「あっという間に見つけちゃうんだもの。びっくりしちゃった!」と嬉しそうに笑う。 「名探偵が好きなの?」 「すき!」  知成の問いに元気よく返事をして、「ホオムズとか、明智小五郎とか……」と桃色の「頬で指折り数えるのを見て知成は目を細める。 「私も名探偵?」 「あっ」  途端に顔をあかくする少女を見て、知成は満足気ににっこりと笑った。  その表情を見た少女は、ふくふくのほっぺたを殊更にあかくする。ぽぽぽ、と湯気でも出てきそうな頬を抑えるために、少女はぱっと手を離した。 「どうかした?」 「なつ、恥ずかしい」 「私は嬉しかったのに」  指の隙間から少女が伺うように知成を見る。  知成の微笑みはやっぱり澄ましているように見えて、「もう!」と地団駄を踏む。揶揄われているようにしか思えなかったのだ。 「そんなに怒らないでおくれよ、お姫さま」  さらりと伸ばされた手を少女は頬を膨らませながらじっと見つめる。揶揄われるのも子どものように扱われるのも腹ただしい事この上なかったが、差し出された手を振り払うのは少し、いやかなりもったいないと思った。  知成はおずおずと重ねられる手に胸中でほっと息を吐く。彼もまた、掌にあったぬくもりを手放しがたいと思っていた。 「さ、帰ろうね」 「……うん」  どちらからともなく踏み出した足は、ゆっくり、ゆっくり動く。  光の筋の落ちる桜並木。ちらちらと舞う桃色の中。  リンゴの様な顔の子どもが2人、並んで歩いていた。
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