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第壱話 愛しとなぞる、その指先
拝啓 鬼塚知成 様
花の便りが聞かれる頃となりましたが、知成さんはどのようにお過ごしでしょうか。私はこの頃になると届く桜の花びらを見る度に、貴方と歩いた桜並木を思い起こします。
今ではもう昔のことになりますが、貴方と過ごした1週間はあまりに短いものでありました。けれども私は、春の始めの川で冷たいとはしゃいだことも、神社の境内で杏子飴を買って食べたことも、風にさらわれた宝物を取り戻してもらったことも、すべて昨日のことのように鮮明に思い描くことができます。
さて、この度筆をとったのは1つご報告したい事があったからです。
私、五百蔵なつめは20歳を迎えるにあたって婚約することとなりました。
思えば、こうして手紙を交わすようになってもう12年になります。
あの日以来、再び逢うことは出来ませんでしたが、貴方と過ごした思い出は私の中で最も美しい記憶であり、貴方と手紙を交わすという事は、貴方を傍で感じることができる至上の幸福でありました。
しかし、人の妻になる以上こうした手紙を送ることは許されないでしょう。それだけが悲しくてなりません。
このような一方的な手紙になってしまい、とても心苦しく思っています。
本当にごめんなさい。どうかお元気で。
五百蔵なつめ
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