第3章

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 午後の仕事を終えて執務室に行くと、リュカも巡回から戻って来ていた。執務室はガルダとリュカが使う部屋だ。といっても、リュカは出かけていることも多い。 「アオバ、元気か?」  リュカがいつものようにくしゃくしゃと髪を撫でる。これはやっぱりここの習慣なんだろうか。でもほかの人がそんなことをされている姿はあまり見たことがない。  リュカの温かい手が気持ちよくて、碧馬はにっこり笑う。 「元気だよ。リュカもお疲れさま」 「ああ、アオバの顔を見ると元気が出るな」 「そう?」  ガルダがお茶を淹れてくれた。ここのお茶は麦茶に似た香ばしい匂いがする。 「ところでアオバ、一つ、確認したいことがあるんだ」  リュカが改まった感じで言いだしたので、碧馬も背筋を伸ばした。 「いや、そんな緊張しなくていい。アオバは頭を撫でられることがあると思うが、その意味は知っているか?」 「ううん。何か意味あるの? ここの習慣かな、リュカもよく俺の髪を撫でるよね?」 「ああ、まあな」  リュカは意味ありげに微笑み、ガルダは納得した顔でうなずいた。 「やっぱり知らなかったか。俺が撫でても嫌がらなかったからそうかなと思ったんだが」  昼間、ガルダにも撫でられたが、あれに何か意味があったんだろうか? きょとんとする碧馬にリュカが言った。 「アオバに伝えておかなきゃならないことがあるんだ」 「なに?」 「ここでは頭や髪を撫でるという行為は相手が好きだと言う意思表示になる」 「ええっ?」  碧馬は目を丸くした。  そう言われてみれば、リュカからは出会った時からよく髪をくしゃくしゃと撫でられているが、あれはそういう意味だった?   ぱぱっと赤くなった碧馬に、リュカは楽しそうに微笑む。リュカは自分の気持ちを隠すつもりは一切ないので平然としていた。 「あの、えっと」  困ってしまって視線をうろうろさせる碧馬にガルダが問いかけた。 「それで確認なんだが、ラウリからよく頭を撫でられてるのか?」 「え、ラウリ? あー…、言われてみればけっこうされてるかも。でもラウリは俺のことは弟みたいだって言ってたけど」 「どうかな。アオバがこの行為の意味を知らないとわかってやっているなら、ほかの者への牽制だろう」  ガルダの言い様に碧馬は首を傾げる。 「牽制って?」 「人前で誰かの髪を撫でると言うのは、自分が口説いているからこいつに手を出すなという意味になる」  リュカはすこし渋い顔でうなずく。その顔を見て、碧馬はあわてて言った。 「え、俺、口説かれてなんかないよ」 「でもこれからラウリは口説くつもりだったんだと思うぞ。家に誘われたんだろう?」  ガルダがそう指摘して、碧馬ははっとした。言われてみれば、確かに家に誘われたが……。 「でもそれは、勉強を見てくれるってことで……」  リュカとガルダは顔を合わせて、やれやれというようにガルダが首を振った。
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