第3章

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「俺が最初に教えなかったのが悪いが、理由はどうあれ、頭を何度も撫でた相手を家に誘って断られなかったとなれば同意だと思われても仕方がない。ラウリはあれでαだし、Ωの碧馬にとっては悪い相手じゃない」 「え、でも俺、口説かれる気も、ラウリとつき合う気もないよ」 「なら話は簡単だ。撫でた相手がそれを断れば「これ以上口説くな」という意思表示になる」 「本当? 断るってつまり、俺が頭撫でないでって言えばいいの?」 「ああ。ラウリはああ見えてプライドが高いから、アオバが嫌がればそれ以上はちょっかいを出さないだろう」  碧馬はこれまでのラウリとのやりとりを思い返していた。  そんな意味があるとは知らなかったから、ただのスキンシップだと思っていて何も言わずにいたのに急に断ったりして気を悪くしないだろうか。  碧馬にとっては面倒見がいい親切なお兄さん的存在だったから、その関係が壊れてしまうのはさみしい気がした。そんな迷いを読み取ったようにリュカが言う。 「アオバ、断るならはっきり言ったほうがいいぞ。ラウリもアオバがその意味を知らないとわかっていて、ああやって人前で髪を撫でていたんだから、事情がわかったのならなるべく早く対処したほうがいい」  リュカの言うことはよくわかってそうしたほうがいいと思うが、ラウリが自分を好きだという実感もないので、なんだか自意識過剰な気がして言いにくい。口ごもる碧馬にリュカはすこし表情を曇らせた。 「もしかして、ラウリが好きだったのか? それなら断る必要はないが……」  碧馬のためらいを誤解したのか、リュカがそんなことを言いだして碧馬は焦ってあわてて首を横に振った。 「そうじゃないよ。そういう意味で好きじゃないけど、ラウリは親切だからそんなふうに言ったら悪い気がして」 「アオバ、ラウリの親切は下心ありの親切だから、そこはちゃんとはっきり断った方がいい」  ガルダが強く言い切った。  そうだったのか、あれこれ話しかけてくれたり言葉を教えてくれたのは、下心ありだったのか。……だけど本当にそんな気持ちだった?  誰かとつき合った経験もない碧馬にはよくわからなかった。ましてここは異世界で獣人たちの気持ちは碧馬の常識は推し量れない。  でも好きな相手が目の前にいたら構いたくなるし、構ってもらいたくなる気持ちはわかるよな、と思った瞬間に頭に浮かんだリュカの姿に碧馬はうろたえた。
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