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生まれ故郷から突然ここにやって来た碧馬に、どんな言葉を言っても慰めにならない気がした。
帰る方法はわからないし、何よりリュカは碧馬に帰って欲しくない。
碧馬はまだ知らないが、彼はリュカの運命の番なのだ。
でも家族に会いたいと思う気持ちは理解できた。自分だって、たった一人で異世界に飛ばされたら、寂しくて何とかして帰ろうとするだろう。
もし帰る方法が見つかったら、碧馬はどうするだろう。
「やっぱり帰りたいか?」
「……時々」
いつもと答えたいのを我慢して、碧馬はそう返事をした。
ここでの生活が嫌なわけじゃない。
みんな優しいし、自警団の中には自分の部屋があって仕事もあって、碧馬を大事にしてくれる人もいる。
それでも家族や友達に会いたいという気持ちは湧いてくる。
食べ物に困ることだってないけれど、たまに無性に母親の作ったおにぎりやカレーや餃子や肉じゃがが食べたくなって、そんな時はとても切ない。
あのマンガ続きどうなったのかなとか、映画に行く約束してたなとかそろそろ期末テストだとか、そんなことを思い出すとどうしようもなく寂しくなる。
すこし沈んだ碧馬の横顔を、リュカは黙って眺めていた。
どんな慰めも届かない気がしたが何とかしてあげたくて、広場の隅のベンチに座って抱き寄せた。
碧馬は素直に腕の中に納まって、ちょっと無理をした笑顔を浮かべた。
「ありがとう、リュカ」
「いや、何もできなくて悪いな」
「ううん。リュカに出会えて、本当によかったと思ってるよ」
さみしそうに笑う碧馬に胸が痛くなって、リュカはそっとその頬に口づけた。
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