第2章

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第2章

 次の朝、一階に下りてきた碧馬は、待っていたリュカに不思議なものを渡された。微妙な色合いの丸い輪っかで、光に当たると何か細かな模様が刻まれているのが見て取れた。 「アオバ、これを首に着けておけ」  留め具がついていて、チョーカーを太くしたような感じだ。  持ってみたらとても軽くて、プラスチック製みたいにつるつるしていた。一体何でできているんだろうと碧馬はそれをひっくり返して眺めた。 「何これ? 首輪?」 「いや。お守りのようなものだ」 「お守り?」 「そうだ。襲われた時、うなじを噛まれないように」  確かに留め具になっている前のほうは細くて、首の後ろ部分はすこし太くなっている。それがうなじを覆うためのものだと理解はしたが、不思議なことを言うと碧馬は眉を寄せた。  襲われた時にうなじを噛まれないように?  なんだそれは。  意味が分からなくてリュカを見上げた。 「噛みついてくるような危険な動物が森にいるの? 殺されるとか?」 「いやよほど奥に行かない限り、殺されるような動物には会わない。それに警戒するのは動物じゃない」  リュカは真剣な顔をしている。 「じゃあ、襲われるって何に?」  何がいるのだろうと怯えた顔になる碧馬を、リュカは食堂の片隅に誘って椅子に座らせた。  昨日は碧馬が落ち着いてからと思ったが、幼く見えてももう十七歳なのだから早く話をした方がいいと思い直したのだ。 「昨日、アオバはΩだと話しただろう?」 「うん」  もっともその意味は碧馬には理解できていない。 「Ωの特性としてαやβを誘惑しやすいんだ。特に発情期にはそれが著しいが、それでなくても事故が起きないようにこれをつけていて欲しい」 「あるふぁやべーた? 事故ってなに?」  何に気をつければいいのかさっぱりわかっていない碧馬に、リュカは最初から根気よく説明した。  この世界には男女の区別に加えてα、β、Ωの三種の性があり、その特性や関係性などをじっくりと話すと、おぼろげながら碧馬は理解したようだ。 「そして、ここからが大事なことだが、Ωの男女は発情期にうなじを噛まれるとその相手と番になるんだ。本人の意志とは関係なく」 「は……? つがい?」  つがいって動物のオスとメスのことだよな?  碧馬の認識ではそうなのだが、ここでは違うようだ。
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