コンプレックス

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「お、サオリちゃん。こんちわ」 そう声をかけられた。 こんちわ、とはいっても、日も落ちかけ、夜が差し迫っていた。 声をかけてきたのは、サッカー帰りの祐希さんだ。 タオルで額の汗をぬぐうその姿は、爽やかだ。 祐希さんは、お兄ちゃんの同級生で、高3だ。 毎日塾通いしていたお兄ちゃんが必死で目指した大学に、なんなく合格した、天才だ。 塾にも入らず、部活のサッカーに明けくれている姿ばかり見かけたのにさ。 今日みたいにね。 頭も良くて、スポーティーで、ハンサムで、優しいのだ。 おまけにバイトもしていて、お金も持っていた。 最新のゲーム機を手に入れたなんて話も、お兄ちゃんから噂で聞いている。 「なんであいつは部活やバイトに励みながら、するっと合格しちゃうのかね」 なんて、お兄ちゃんは愚痴っていた。 「あの、祐希さん……。マルージギャラティカル、買ったんですよね?」 最新のゲームソフトだ。 「あのゲーム、すごい気になってて……」 質問の意図を汲んでくれた祐希さんは、彼の自室へと招待してくれた。
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