一分でかき氷を食べたなら

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「ねぇ、そのかき氷を1分以内に食べれたら、付き合ってあげても良いよ?」 「えっ!?」 「よーい、スタート!」 「ちょっ、えっ?」 「もう始まってるよ。あと、55秒」  スマホの画面を俺に突きつける。残り時間がみるみる減っていく。俺は訳も分からず目の前にあるかき氷をスプーンでかきこむ。 「あー!!」  声を出したところで、かき氷は冷たい。ジェットコースターで叫び声をあげても怖いのが変わらないのと一緒だ。  スタートダッシュとして勢いよく口の中に入れたかき氷を噛み、少しでも早く溶けるようにする。その間、スプーンで容器に残るかき氷を叩き、少しでも溶かそうとするが全然溶けない。  いったいなんなんだ?  同じクラスで隣の席だから普段から仲は良い。顔も普通に可愛いと思う。でも、付き合ってあげても良いよってどういう事?  今日だって終業式が終わって、家に帰る途中で後ろから声をかけられて、そのまま一緒に帰ってて、帰り道でかき氷が売っていたから食べようって話になって……。  どうしてこうなった? 「いや、でもさ……」 「あと30秒~♪」  口の中が空になったから言葉にしてみたけど、話をしている余裕はなさそうだ。とにかく話は食べきってからだ。時間はあと半分。かき氷もあと半分。空になった口に、一気にかき氷をかきこむ。 「おりゃーーーー!」  と、心の中で叫びながら残り4分の1まで一気にかきこんだ。 「あと15秒♪」  このままでは間に合わない。  口の中にはまだ氷が残っている。最後の氷を無理押し込みなんとか容器を空にした。  冷たい。いや、もはや冷たいを通り越して痛い。口の中も頭も。  でも、これを飲み込めば俺の勝ちだ。  そう思った瞬間、俺の横っ腹を人差し指でツンツンしてきやがった。  ダメだ、くすぐったい……。  でも、口の中のものを吹き出してしまったら目の前でニヤニヤしているコイツにおもいっきりかかる。  我慢だ、我慢するしかない。  鼻で荒く息をしながら、くすぐりに耐える。  あと、これを飲み込めば……。 「タイムアーップ!」  目の前に突き出されたスマホのタイマーは赤い文字で00:00を表示していた。口の中にはまだ氷が残っている。時間切れだ。 「ざんねーん。失敗でーす」  とりあえず何とか口の中にある冷たい液体を飲み込み、 「何すんだよ! くすぐらなければ時間内に食べきれたのに!」  と叫んだ。  とっさに出てきた言葉がそれだった。驚いた顔でこっちを見つめてくる。 「ねぇ、もしかして悔しいの?」 「そりゃ悔しいだろ」  そう言う俺の顔を下から覗き込んでくる。 「どうして?」 「どうしてって……。それは……」  俺は口ごもってしまう。  なんで悔しいんだ?  なんで無理やり1分以内に食べ切ろうとしてたんだ? 「そんなに私と付き合いたい?」 「は? いや、その……」 「じゃあ、付き合ってあげる。今からあなたは私の彼氏ね。私はあなたの彼女」 「は、はぁ……」 「これからよろしくね」  彼女は「ごちそうさまー」と言って、かき氷の入った容器をお店に返した。彼女のかき氷はほとんど残っているけど、もう食べないらしい。  あっけにとられて立ち尽くす俺の右手を取り、ひっぱるように前に進んでいく。まるで、犬と飼い主みたいに。 「明日からの夏休み、二人で楽しく過ごそうね」  彼女の先にはギラギラ光る太陽があって、眩しくて顔が見れない。ただ、そのひんやりとした白い手が離れないようについていくことしか出来なかった。
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