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「ああ…彼は、大島さんはそう、警察…公安の人だという話でした」
「公安警察!?」
びっくりして思わず夏美は叫んでしまう。
公安警察って…あのハシビロさんが!?
うわ…公安の人とか、初めて見た、マジでいるんだ公安とかって。
「いくら私が情報協力者だとしても、詳しいことまでは話せないと大島さんは言っていたわ。
だけど、これだけは教えてくれた。
田所という人物は…それは本名ではなく、毎回名前が変わるらしいのだけれど、とても危険な人で…これまでに大島さんたちが把握しているだけでも、国際的な重要事件の数々に関わっている容疑があるらしいの。
田所…彼は、その素性もはっきりしていなくて、そもそも日本人であるのかも分からないし、見た目も定期的に整形でもしてしまうのか、ころころ変化してしまうんですって。
今回やっと、奴のしっぽを掴むことができたと、そう大島さんは言っていた。
だけど田所は、外見も指紋さえも現れるたびに変化してしまうから、どうやらツアーの参加者に紛れているらしいとは分かっても、そのうちの誰が彼であるのかは、ずっと追ってきた大島さんでさえ分からないと…。
だから慎重にならなければならない。
田所はとても危険な存在だから、本当は君を連れていきたくないと、そう大島さんは何度も言っていて…」
そこまで話すと、何かハシビロコウとの思い出がよみがえったのか、千鶴はうつむいて黙り込んでしまう。
そんな様子の千鶴を気遣うように夏美が心配げに見つめている一方、犬彦は何かを考えるように眉をひそめている。
「まずいかもしれないな…」
「え?」
犬彦の独り言めいた呟きを、夏美は聞き逃さなかった。
しかし犬彦はただ首を振る。
「いや…とにかく、これで田所という男に関して概ね理解することができた。
あとは、いくつか必要事項について教えてもらえたならば、あなた方にはしばらくのあいだ身を隠していて欲しい、俺と日向さんの狩りが終わるまでのあいだ」
「狩り…ですか?」
不思議そうな表情をしながら顔を上げた千鶴へ、犬彦はにっこりと営業スマイルを浮かべる。
「あるいは鬼ごっことでも言うべきかもしれませんが」
そして犬彦は、それまでぐったりと床に腰を下ろしていたカバの腕をつかむと、肩を貸すようにして彼を立たせた。
一緒にカバの体を支えてくれている千鶴と夏美を引き連れた犬彦は、ずっとおとなしく倒れていたままのカピバラにも声をかける。
さあ、これから君たちは談話室に籠城するのだ、お前もついてこい、と。
ここで犬彦は、それまで自分が持っていた猟銃を夏美に渡す。
猟銃は夏美の手へと移動した、ずっしりとした重みと共に。
「さて日向さん、ハンティングの時間だ。
行くぞ、殺人鬼を仕留めにな」
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