交差点のミュージシャン

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交差点のミュージシャン

 大都市の交差点。道行く人々は、早歩きで忙しそうに目的地に向かっている。僕はその流れを止めるように、片手でスマホをいじりながら『それ』が来るのを待っていた。  待ちに待った夏休みだけれども、自由研究だけは憂鬱だった。先生は、自分の興味のあることを調べなさいと言うけれども、そんな簡単に興味あることなんて転がっている訳がない。そのまま時間が過ぎて、8月も半分が終わっていた。今年も適当に観察日記をつけて誤魔化そうかと考えていた。でも、今年は違った。  きっかけは、とあるSNSで流れてきた投稿だった。そこには、交差点の中心で急に歌いだす男が映っていた。男はどこから現れたのか、交差点の中心で急にギターを取りだし歌いだすのだ。周りの人は驚きと異質なものを見るような様子で通り過ぎていくが、彼はそれでも歌い続ける。そして、歩行者信号が点滅する頃にギター片手にどこかへ走っていくのだ。  僕は不思議だった。恥ずかしくないのか、なぜそんなことをしているのか。だから、直接会ってインタビューしようと思った。それを自由研究にしてしまおうと思い、家を飛び出した。  立ち止まっているので、たまに道行く人とぶつかり舌打ちをされる。中学生相手に舌打ちするなんて、どれほど余裕がないんだろう。そう思いつつ、彼が現れるのを待った。  動画を見る限り、彼はいつもこの交差点に現れる。待っていればいつかは会えると思って待ち伏せして、一週間が経った。その間にも何度か現れたのだけれども、僕がトイレに行っている間だったり、諦めて帰った直後だったりと、絶妙にタイミングが合わない。その時の様子がSNSで流れるたび、悔しい思いをした。
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