掃除人の告白

4/10
前へ
/10ページ
次へ
姫様の声がして、僕は大きく深呼吸をしてから部屋に入った。 入った瞬間目に入ったのは、暖かい日差しが射し込む大きな窓だった。 風によって揺れるカーテンはさくら色をしている。 部屋からは花のいい匂いがした。姫様の匂いと同じだと思った。こんなことをいうと変な人のように思われるかもしれないが。 今日の僕の仕事は姫様の部屋の掃除。 片付けるのが苦手なのよねぇと姫様はよく笑っていたが、 「これは……なかなか……」 見渡すと足の踏み場もない。床には服や本や、枯れた花が散乱していた。 「ちょっと汚れてて、落ちてるものは全て捨てていいわ」 てへっと笑う姫様に 「お任せください」 僕はさっそく掃除を始めた。 床に落ちているものを拾うだけでも時間がかかりそうだ。 できるだけ手際よく拾っていく。枯れた花やゴミはゴミ袋に入れられるが、服や本はそうはいかない。 しかし、姫様に捨てていいといわれたので、とりあえず別の袋の中に詰めていく。 姫様はベッドの上に座って僕に何も言葉をかけることなく、ただじっと見ている。 「……そんなに見られると恥ずかしいんですけど」 「敬語」 「あ。恥ずかしいんだけど……」 「だって、動いてるのがマルコスだけなんだもん。見てて楽しいもの」 心底嬉しそうに笑うので、やめてくれとも言えなかった。 「あの、本とかも捨てていい……の?」 「うん、だって部屋に入らないんだもの」 「……わかった」 まだ着られるもの読めるものばかりなのだが、そこは姫様と言ったところか。 ものに対して執着心があまりないのか、捨てる量が多すぎる。 僕が今まで見てきた中で一番たくさんの服や本だった。 いや、僕の持っている服が少ないだけなんだけれど。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加