掃除人の告白

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なんとなく気味が悪いと思って、僕はそのまま急いで箱をそのまま炎の中へ投げ込んだ。 ぱちぱちと音を上げて箱は燃えていく。 蓋を開けたままだったので、中に入っている布にもすぐ火が移った。 あせた水色の布は外側から次第に燃えていき、数十秒で灰に姿を変えた。 箱もかなり大きかったが、炎は確実に迫っていき箱を包む。 全て燃え尽きるまで、僕はそれらをじっと見つめていた。 何時間たっただろうか、はっと気が付いた時には日が暮れようとする時間だった。 慌てて立ち上がるとずっと座っていたからだろうか。ふらついて、しりもちをついた。 目の前には大量の灰。 箱だったものは質量のある灰になり、風によってその形を変える。 他にもあった本や服も、もう跡形もなくなっていた。 「ん?」 灰の中にきらりと光るものが見えた気がした。 手を伸ばし灰をかき分け、それを手に取る。少し熱かったので、袖で包むようにつかみ取った。 炎の中でも光を絶やさずに輝き続けたのは先ほど見た指輪だった。 火の中でも燃えなかったということはかなりの高級品なのだろう。 輪の部分は金でできていて、溶けてしまったのか形が変わっていたが、宝石の方は無事だった。 真っ赤なそれはサファイヤだろうか。 炎をそのまま閉じ込めたようなそれは太陽にかざすとゆらゆらと中が動いているように見えた。 「きれいだ……」 ほうっと息を吐いて見入る。 でも、これはどうしたものか。 姫様には捨てろと言われた。 このまま灰の中に埋めてしまえばいいのか。 海にでも捨てればいいのか。 どれも、なんとなくもったいない気持ちになって僕は指輪だったものを見つめたまま考え込んだ。 「マルコス?そこでなにをしているの?」 集中しすぎて気が付かなかった。いや、こんなところに来るはずがないと心のどこかで思っていたのだ。 僕はぱっと顔を上げる。心配そうな顔で僕を見下ろす奥様と目があった。 「奥様……」 「どうしたの?具合でも悪いのですか?」 「い、いいえ。ゴミを燃やしていただけです」 「そうなの?こんな遅くまで?」 「ええ……」 無意識にぎゅっと指輪を握りこめる。奥様に見せるのは危険だと僕の本能が言っていた。 こんな高価なもの、姫様の持ち物なのかもしれないが、そうじゃない可能性もある。 姫様のものだとしてもこれを捨てたのは奥様にばれない方がいいに決まっている。 そんな僕の浅はかな考えは、きっと奥様には透き通るようにばれてしまうのだろう。 「マルコス、なにか隠していますね?」 奥様は眉をひそめていった。
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