掃除人の告白

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「……な、何も……」 「…マルコス」 怯える僕に奥様は、短くぴしりと言い放つ。 「あなたがなにかを隠したのはわかっています。そのまま見せないのであれば私はあなたをここに置いておくことはできませんよ」 仕事がなくなる―― という意味だと受け取った。 僕はこの城から追い出されれば働き口がなくなる。 一人で生きていけるほど、外の世界は優しくないのだ。 「なにか事情があるのはわかります、そうでなければ普段真面目なあなたがこんなことをするはずがありません」 僕はほっとする。 ここまで信用してくれることが嬉しかった。 奥様はかがんで僕と目線を合わせた。 小さい子どもに言い聞かせるように 「正直に話して。怒ったりはしないわ」 穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと言った。 僕は視線を床へと落とす。 奥様の手が僕の顔にかかり、そっと撫でる。 奥様の手は姫様と同じように白く、長く、美しい。そして、姫様のよりも温かかった。 その温かさに心がほっとして、僕は口を開ける。 「実は、不要なものを焼却していたのですが、こんなものが……」 握りしめていた手を開く。思っていたよりも強く握っていた手は爪の跡と指輪の跡がくっきりとついていた。 奥様は僕の掌に転がった指輪をじっと見つめる。輪の部分は焼けてしまって原型をとどめてはいないが、炎の中でも光を絶やさなかったサファイヤがしっかりとその価値を主張するように見えた。 「たくさんのものと一緒に燃やしてしまったので、どこのものかはわからないのです……申し訳ありません」 「いいのよ、マルコス」 奥様は指輪からすっと視線を外して言った。 「いらないと思ったから捨てたのでしょう。あなたのせいではないわ」 目線の先にあるのは姫様の部屋。部屋の窓は開いていて、カーテンが揺れていた。 きっと今もあの部屋の中には姫様がいるに違いない。 何をしているのだろう。 奥様の目線は変わらないまま、じっとそこを見つめていた。 「もういいわ、マルコスありがとう」 しばらくすると奥様は僕の手から指輪を取り上げ、去っていった。 一体何だったのだろう。 姫様の部屋からだとばれてしまっただろうか。 姫様に怒られてしまうかもしれないなあ、なんて、この時は 簡単に考えていたんだ。
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