24人が本棚に入れています
本棚に追加
「いつだったっけ? 一年生くらいのころ? 夏ここに泊まりにきたときにさ、暑くて夜全然寝れなくて、涼しいところはないのかって二人で考えて、夜ここの廊下にそのまま寝たことあったよな」
小さい頃は長期休みのたびにお互いの家に泊まったりしていた。
「あったね」
ここは庭の大きな木のおかげでちょうど日陰になっており、特に夏は冷房のない家にとって最高の場所だった。何か食べたり、そこで遊んだり、ごろごろしたり。
当時は寝転んでも余裕があり、一人でこんなに廊下いっぱいにならなかった。この廊下もこんなに狭かったのか。
私は透の頭の上にしゃがんだ。
「すごい体は痛かったけど、冷たくて気持ちよくて」
「うん」
「で、朝になったら涼しすぎて、布団もかぶってないし、パジャマから腹も出てるしで、二人とも風邪ひいたんだよな」
「朝は寒かったんだよね」
「たしか佳奈のおばさん、……いや? おばあさんに?」
「そう! おばあちゃんに、怒られた」
さっきまで塗り潰そうとしていた記憶が、懐かしさと一緒に一気によみがえってしまう。
ずるい。この男は一体何を言い出すのか。今さらそんなことを言って惑わせるのはやめてほしい。私がどれだけとらわれて身動きできないのか、わかってない。
でも嬉しかった。
だって、それは私と透だけの話だから。誰かの話題ではない、二人だけの話だから。
最後かもしれない。
自然と笑顔になれた。
最初のコメントを投稿しよう!