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 透はゆっくり体を起こした。そして、こちらへ向き直った。 「あのさ」 「ん?」  笑っていない透の目と視線が合った。  透の手が私の手に重なった。  突然手の甲に感じた重みに私はびっくりして、とっさに手を引っ込めてしまった。透は目を逸らさなかった。 「どうして」 「まだ間に合う?」  この男は何を言っているのか。  間に合っていない。今更。今までのやりとりは。今までの私は。  これまでの色々なやりとりが頭の中をぐるぐると駆け巡った。 「……だって、彼女は」 「別れる」 「そんなの……!」  信じられない。  なんで急に? なにを言っているの?  透は再び私の手を取った。半ば強引に強く掴まれた。  知らない手。透の手。  途端に目から涙が溢れてきた。何がどうなったのか思考は追いつけなかったが、我慢していたものが、堰を切ったように溢れ出してしまった。 「ずるい、今更、ずるい、なんで、透なんて嫌い、嫌い……」 「ごめん」  透は泣いているの私の肩を抱きよせた。 「悪かった」 「嫌い、大嫌い……うぅ……好き、好き、好きなの……ずっと、ずっと、好きだったの」 「うん、俺も」  私は透の背中に手を回して泣き続けた。  泣いたらわかった。  私はずっと泣きたかった。泣いたら隣にいられなくなるような気がして、笑っていないと、とずっと思っていて。  でもそうじゃなかった。  ずっと泣きたかった。
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