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「いやあ、今回も凄いですね! 三藤さん!」
青年を連行し、署に戻った俺に真っ先に声を掛けたのは、後輩刑事の高峰だった。
「本当に三藤さんはヒーローですよ。まさに殺人をするってその時に、颯爽と現れて捕まえちゃうんですから!」
高峰はまるで紙芝居屋のように、大袈裟な身振り手振りでそう言った。俺はそんな彼を横目に、仕事に取り掛かる。
俺は警視庁捜査一課の刑事だ。殺人などの重要な罪を犯す、日本で一番危険な奴等を相手にしている。
そんな俺には、或る不思議な力があった。人を殺そうとしている人間が、或る方法を通じて分かるのである。
さっき俺が青年にハンカチを拾ってもらった時握手をしたのは、感謝の意を込めただけではない。その手の温度を知りたかったからだ。
俺の握った手が、ひんやり、死人の様に冷たかった時、そいつが近々、人を殺そうとしているという事が分かる。
確かに、本当に日頃から手が冷たい人は居ると思う。でも、そういう事ではないのだ。殺人をしようと思っている奴の手は、明らかに人間の温度ではない。そんな感じがするのだ。別に正確に測定したとかそういう事ではないから、科学的証拠とかは勿論ないし、第一この感覚は俺にしかないのだ。職業病に似たものなのだろうか。
この力は、殺人犯を未遂に終わらせるという事に大きく貢献した。しかし、道行く人全ての手を握るというのは当然不可能。そこで、俺は道を歩く時に必ず何か物を落として、拾った人と握手をする、という方法を取った。
それを実行する中で、俺は或る事に気が付いた。殺人犯の心理的特徴である。
芥川龍之介の作品「蜘蛛の糸」。そこに登場する極悪人・カンダタは、蜘蛛の子を踏み潰そうとしたが思いとどまった事で、お釈迦様から助けてもらえかけた。つまりどんな極悪人でも、小さな事への善意を傾ける時があるという事だ。
だから俺が落し物をすると、拾ってくれる人間が殺人犯である事が案外多い。
こうして俺の仕事は成り立っている。血生臭い現場を作り出す事なく、穏便に片付ける事が出来るのだ。
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