冷たい手

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「……え?」  押入れには、温かな布団はなく、あったのは冷たく横たわる男性の死体だった。この男性には見覚えがある。確か、愛花が自慢げに見せてきた写真に…… 「……拓也君」  その時、ぞくっと背筋に走る寒気。冷たい視線が、俺に向けられている。それを背中で感じ取ったのだ。その視線の主が誰なのか……言うまでもなかった。 「拓也……もう、私とは駄目だって言ったの……他の子が好きになったんだって。だから私……つい、かっとなって……」  すっと背中に触れる、鋭い感覚。……鋏だろうか。 「だから止めないでって言ったのに」  今、彼女の手を握ったら、今までにないくらい冷たいんだろう。もうそれを知る術はないけれど……彼女の握る鋏から、その冷たさが伝わってくる気がした。 「ごめんなさい、お父さん」  彼女の言葉は、聞いた事のない冷たさを帯びていた。  ――了。
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