第二話 断り切れない誘い

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第二話 断り切れない誘い

翌朝、いつものように明梨の朝食をつっくってから会社に向かう。   「おはよう、上杉」   「はよはよ、直」   オフィスに着き同僚の上杉康汰に話しかける。   こいつとは大学からの付き合いで性格は基本真面目だが女性関係になるとだらしがなくなる。大学の時も、すぐに女性と付き合っては、他の女性から誘惑されると浮気をする。しかし上杉には何の悪気もなく、浮気をする理由は自分はモテてしまうから仕方ないと言い放つ。そんな上杉の思考にはついて行けないと思っている。   「ねえねえ、直。明梨ちゃんは元気?」   「まあな、元気だぞ」   上杉は大学時代に俺の家に来たことがあり明梨とは知り合い程度だ。どうやら今度は明梨を狙っているらしく、正直、会わせたくない。   「そうなんだ。今度遊びに行っても良いだろ?」   「良くない、来るな。明梨は受験で忙しいんだよ。上杉が来たら勉強に集中出来ないだろうが」   冷たくそう言い放つと上杉はわかったよと残念そうに諦めていた。   そのうちに朝礼が始まり、今日一日は外回りの予定はなくて自分のパソコンを立ち上げて作業を始めた。   「おい、矢神はまだいるか」   定時時間になり帰り支度をしていると斉藤部長に呼ばれた。   「はい、どうかしましたか」   「ああ、良かった。矢神、社長が呼んでるんだが行って貰えるか」   何だろう、失敗した覚えは無いのだが。悩んでいても仕方ないし行くしかないか。   「わかりました」   「直、俺は先に帰るよん。おっつかれした」   上杉は元気よく帰って行った。本当にあいつは慌ただしいなと思いながら足早に社長室に向かい扉を叩く。   「矢神です」   「おお矢神くんか。入って良いぞ」   社長の言葉を聞いてから中に入る。   「早速なんだが矢神くん。君、今付き合っている人とかは居るのかね」   何でそんな事を聞くんだ。もしかして、お見合いをしないかとか言い出すつもりか?   「別に居ませんが」   嘘をついても仕方ないし正直に話そう。   「そうかそうか。それは良かった。実はだね、うちの十九歳の一人娘が君のことを気に入っていてね。君の写真を見せたら是非会いたいと言うんだよ。私としてもだね、君は真面目で仕事は出来るし社内の評判も上々だ。だから、君が将来の義理の息子になってもらって、会社を継いで貰えたら我が社の為になるんじゃないかと思ってるんだよ。どうだね、君にとっても悪い話じゃないと思うのだが」   確かに悪い話じゃないような気がする。将来、社長になれたら明梨にもっと楽をさせてあげられる。亡くなったうちの両親もきっと喜ぶだろう。陽子さんに送る仕送りが多く出来る。だけど、そんな下心で結婚しても良いのだろうか。   「社長、大変申し訳ないのですが、社長のお嬢様とは面識もないですし、俺個人的にとしても今は仕事を頑張りたいと思ってまして。なのでこの話はお断りさせて下さい」   お辞儀をして丁重に断った。すると社長は少し笑い、顔を上げたまえと言った。   「ますます気に入ったよ。その君の真面目な性格。きっと君は娘を泣かすようなことはしないだろう。今度の日曜日の夜、予定を空けといてくれたまえ。君の家に私の秘書を迎えにやらせる。我が家に招待しよう」   何をそんなに気に入られてしまったのだろうか。   「しかし社長、日曜日はうちの妹と実家に帰る予定でして」   「それはその日じゃないといけないのかい。予定をづらしてくれたまえ。せっかく君を招待しようと言っているのだから」 明梨を使って断る口実を作ったら強引にそう言われてしまった。これはもう、断り切れないのか。   「はい、わかりました」   少し間を置いて返事をする。   「わかってくれたか、じゃ、予定を組んでおくから矢神くんも宜しく頼むよ」   憂鬱に思いながら社長室を出ていつものように図書館に向かった。 ー続くー
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