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第三話 出会いと一目惚れ
本を三冊ほど選んでいると見かけない一人の女性を見た。この時間帯はほとんど図書館に来る人は居ないものだから珍しいなと思っていると、その女性は上の方にある本を取りずらそうにしている。
「ちょっと待って。はい、これで良いかな」
その本を取ってあげて彼女に渡すと俺の事を見てお辞儀をした。
「ありがとうございます。取れなくて困って居たので助かりました」
彼女が顔を上げて微笑む。その表情は今までに出会ったことのないようなとても可愛いものだった。そして、胸の高鳴りを感じて彼女の瞳に引き込まれるような感覚に襲われた。もしかして、これが一目惚れというやつなのだろうか。
「あの、どうかなされましたか」
「え、ああ、うん。大丈夫だよ。気にしないで。良かったよ、役に立てて」
冷静を装いそう言うと彼女はまた優しく微笑んでくれた。
「えっと、小説、お好きなんですか」
彼女は俺の持つ三冊の本を見て話を続けようとしている。
「うん、まあね。昔から本を読むことが好きなんだ。君は?」
「私も好きです。小説の中の物語を読んでいると、旅に出ているような気がして。だけど最近は読んでいる暇がなくて。ここには門限まで大学の勉強とかレポートをやりに来てるんです」
そうか、大学生なのか。と言うことは明梨と年が近いと言う事か。
「あの、お兄さん。もし宜しければ、お名前とか伺っても良いですか?」
「そう言えばまだだったね。ごめんね。俺の名前は矢神直樹。君の名前は?」
俺が聞くと彼女は三葉桜ですと答えた。
「三葉桜さんか。素敵な名前だね」
「そんな事ないです。良ければ桜って呼んで下さい。矢神さんにそう呼ばれたいです」
そう言って貰えて嬉しいけど、結構来る子だな。もしかして俺に気があるとか。なんて、そんなわけがないか。さっき会ったばかりだし、一目惚れと言う事もないよな。第一、明梨と年が近いと言う事は未成年って事もあり得る。そんなに若い子が俺なんかに好意を持つなんてことはあるはずがない。
「わかった、お言葉に甘えて桜ちゃんって呼ばせて貰うね。その代わり、俺の事も直樹って呼んで欲しいかな」
これは、強引すぎたか。初対面でしかもついさっき会ったばかりの男にこんな事を言われても困るだけだよな。
「その、直樹さんが良いなら。私もそう呼びたいです」
まさか。こんなに事が早く進んで良いのか。
「あ、今何時ですか?」
「今、十九時だけど」
時計を見てそう答えると桜ちゃんは慌てた様子で門限に間に合わなくなりそう。とりあえずもう行かなくちゃ。直樹さん、明日も来ますかと聞いてきた。
「あ、うん。来る予定だけど」
本当は明日はまっすぐ帰ろうと思っていたが、また、桜ちゃんに会いたくてついそう言ってしまった。
「良かった。それじゃ、直樹さん。また明日会えるのを楽しみにしていますね。お休みなさい」
桜ちゃんが慌ただしくお辞儀をして行ってしまった。
ー続くー
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