第一話 妹

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第一話 妹

単調な毎日。 朝起きて妹の朝食を作り会社に出かける。仕事終わり、本を借りに自宅近くの図書館に向かう。面白そうな小説を見つけ借りて帰る。  「ただいま、明梨?」   「にいに、何か作って。明梨、お腹空いちゃった」   高校三年生になっても甘えたな妹の明梨は玄関まで小走りで出てきた。   「仕方のないやつだな。たまには自分で作るなり買ってくるなりしろよな。そんなんじゃ、嫁の貰い手なくなるぞ」   「だって、明梨が作ったり買ってくるより、にいにが作ったご飯の方が美味しいんだもん」   そういう明梨の頭を優しく撫でながらスーツのジャケットと鞄を明梨に渡す。台所に向かいワイシャツの袖を腕まくりして手を洗う。   「何食べたい?」   「ううん、そうだなあ。久しぶりににいに特製のオムライスが食べたい」   明梨は幼い頃からオムライスが大好きだ。特に母親が作るオムライスが大好きだった。母親が生きていた頃は毎日のように食べたいとせがみ、明梨以外の家族はみんなまたこれかと飽きていたほどだ。   「出来たぞ」   「わあい、ありがとう。なんかね、にいにのオムライスを食べるとままを思い出すんだ。また食べたいな。ままの作ったオムライス」   懐かしそうにオムライスを食べる明梨を見て昔を思い出していた。   俺と明梨には実の両親は居ない。俺が高校三年生で明梨が小学校四年生の時に突然の交通事故で二人とも亡くなった。その後俺は明梨と二人で生きていくため、高校を退学しようとした。だけど母親の妹である陽子さんが俺達二人を引き取り無事に高校を卒業し、大学の受験費用まで出してくれて大学を卒業することが出来た。大学を卒業後、一般企業に就職し今は明梨と二人で生活している。   「無理言うな。近い味は作れても母さんの作ったやつはもう」   「わかってるよ。にいにの作ったオムライスも大好きだからまた作ってね」   明梨はふんわりとした表情をして微笑む。   「明梨、片付けはやっておけよ。兄ちゃんは風呂入ってくるから」   「うん、わかった」   風呂に入り一息つく。   「ねえ、にいに」   風呂の扉越しに明梨が声をかけてくる。   「どうかしたか」   「うん、あのね。にいにがお仕事に行っているときにね、ちいままからお電話があって、たまには顔をみせに帰ってきなさいって」   それは今聞かなくてはいけないことかとも思ったが、頭が少々緩い明梨に言ったところでよくわからないだろうなと思い言うことをやめた。   「わかった。それより明梨、お前はもっと勉強しろ。今年受験だろ」   「うん、わかってるよ。大丈夫。今度の中間は、良い点数取るから期待してて」   期待しててか。何処まで期待したら良いものか。なんせ明梨はとにかく少し頭が緩いからな。   「期待しとくよ。そろそろ出るからそこから出てろよ」   「うん、わかった。ねえ、にいに。今日もにいにの髪、明梨が乾かしてあげるね」   明梨の髪を乾かすという行為は両親が亡くなってからの日課で、毎回俺は断っていた。だけどいつもやると言って聞かない明梨に根負けしていた。   風呂から上がると明梨がフェイスタオルを持って嬉しそうに待っていた。   「この前ね、にいにがお休みの時に明梨のお友達を連れてきたことがあったでしょ。その子がね、にいにの事、格好いいって言ってたよ。にいにはモテるのに何で彼女さん作らないの?」   「それは、明梨が側に居るから必要が無いんだよ」   自分にとっては妹が一番で恋愛というものに興味は無い。そうでなければ陽子さんの家を出るときに一人で出ていた。引っ越しが決まったとき、明梨がにいにと離れたくないと泣き出してしまって仕方なく一緒に暮らし始めた。   「明梨も、にいにが居れば良い。明梨にとってにいには大好きな人なんだもん。でもね、にいに。にいには明梨のことなんて気にしないで、早く彼女さん作ってね?」   髪を拭きながらそう話す明梨の声はとても明るかった。   「そうだな、そのうちな」   「はい、だいぶ乾いたよ」   明梨は立ち上がり俺の隣に腰掛ける。それから俺は本を読み、明梨はテレビを観て三時間程過ごし、寝室に向かい眠りについた。 ー続くー
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