最終話 君と描く未来

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最終話 君と描く未来

翌朝、目が覚めると桜ちゃんが嬉しそうに俺の顔を見ていた。   「どうした?」   「何か、やっと直樹さんと一緒になれたって感じがしたら嬉しくて」   嬉しいか。確かにこうなるまで何年かかってるのだろうか。相当かかったな。   「桜ちゃん、結婚しようか」   初めて付き合う時とよりを戻した時。いつも大切なことは流れだった。だから何となく流れで朝からそんな事を言っていた。   「真面目なのに、そういう所は真面目じゃないんですね」   「悪い、そうだな。やっぱりこれはちゃんと用意してからの方が良かったな」   桜ちゃんの表情は笑顔になり、そうですけど、良いですよ。直樹さんと結婚したいですと言ってくれた。   「ちゃんと指輪も用意するから、待ってて」   「一緒に買いに行きませんか。指輪を直樹さんと見たいです」   桜ちゃんは優しい。その優しさに何度も助けられている。   「そうだな。指輪を買ったら、両親の墓参りに行こう。そして、育ててくれた両親にも会ってくれるか?」   「はい、もちろんです。あ、直樹さん。お仕事大丈夫ですか?」   桜ちゃんに言われて時間を確認すると朝の七時半を回っていた。   「あ、早く行かなきゃまずいな」   ベッドから起き上がり着替えをして玄関に向かう。   「今日も早く帰るから」   「はい、気をつけて行ってきて下さいね」   桜ちゃんから鞄を受け取り頭を優しく撫でて仕事に向かった。   数日後の日曜日。銀行で貯金を下ろし、この日は桜ちゃんと二人でジュエリーショップに向かった。   色々と店内で見ていき、桜ちゃんの気に入った物を購入した。その後に二人で両親の墓参りに行き、その足で実家に向かった。   「お帰りなさい、直樹くん。全然帰ってきてくれなかったから叔母さん、寂しかったのよ。ぱぱ、直樹くんが帰ってきたわよ。ささ、入って入って」   「行こう、桜ちゃん」   桜ちゃんの手を引き家の中に入る。リビングに着くと無口な陽子さんの旦那が珈琲を飲みながら新聞を読んでいた。   「ご無沙汰してます、秋典さん」   秋典さんは短く、んと返事をすると新聞を読み進めている。   「もう、ぱぱったら。せっかく直樹くんが女の人を連れてきたのにその態度はないでしょう」   「大丈夫です、慣れてますから」   陽子さんはそうねと言うと何か入れるから座っててちょうだいと続けた。桜ちゃんを椅子に座らせて自分も隣に腰掛ける。   「はいどうぞ」   「ありがとうございます」   桜ちゃんは緊張しているのか一言も話そうとしない。   「直樹くんがこんな可愛い子を連れて来るなんて叔母さん、驚いちゃったわ」   「秋典さん、陽子さん。今日は、電話で話した通り、結婚したい人を紹介に」   話を始めると桜ちゃんが俺の服の裾を強く握った。   「どうした?」   「えっと、私、ちゃんと自分で言った方が良いと思って。だから、その」   無理をしているのかそう言うと俺の顔を見てくる。   「無理しなくて良いよ。俺が紹介するから。彼女は三葉桜さん。俺より七歳年下です」   「あらやだ。それじゃ、明梨ちゃんの一個上ね。明梨ちゃんにはもう会ったの?」   陽子さんは楽しそうにそう聞くと桜ちゃんを見る。   「はい、もう会わせました。会ったその日に仲良くなってましたよ。と言っても、明梨が一方的に話してましたけど」   「そうなの。明梨ちゃんならそうなりそうね。ねえ、ぱぱ?」   秋典さんに話を振るとやっと新聞を読むことをやめて桜ちゃんを見る。   「直樹、綺麗な嫁さん捕まえて良かったな」   それだけを言うとまた新聞に目をやった。   「はい、秋典さん」   「桜さんは、お仕事は何をされていたの?」   仕事のことやっぱり聞かれたか。隠すことでもないしはっきりと言った方が良いだろう。   「夜の仕事をしていました。えっと、今はもう退職しました」   桜ちゃんが自分で話し陽子さんはそうなの。大変そうねと言った。   「あ、そう言えば、直樹くん。お父さんお母さんの所には行ったの?」   陽子さんが少し気まずそうに話を変える。   「ここに来る前に行ってきました。秋典さん達の所に行く方を優先させようとも思ったのですが、やっぱり自分の両親に先に会わせておきたいなと」   「そうよね。その方がお母さん達も喜ぶと思うわ」   陽子さんは微笑んだ。   二時間ほどが経ち、桜ちゃんはやっと慣れたのか陽子さんが話しかけると一生懸命返していた。俺は何となく秋典さんの側で本を読みながら過ごしていた。   「そろそろ帰ろうか」   「はい、そうですね」   夕方の六時頃、やっと腰を上げて桜ちゃんを連れて玄関に行く。   「もう帰るのね。年明けには明梨ちゃんと康汰くんを連れてまた来てちょうだいね。叔母さん、待ってるから」   明梨は上杉のことを紹介していたのか。   「はい、また来ます」   家を出て駐車場に向かう。車に乗り込み自宅に帰る前に夕食を食べに行ってから帰った。   「何か、安心しました。陽子さん達が良い人で。でも、秋典さんは無口な方で少し怖い感じです」   「無口なのは昔からだよ。陽子さんと秋典さんに初めて会ったのは、両親の葬式の時だったかな。俺も初めて会った時は目つきも悪いし、無口だからとっさに明梨を守ったよ。変な親父が近寄ってきたと思って」   俺が苦笑いをしながらそう言うと桜ちゃんは明梨さんも怖がってたんですかと聞いてきた。   「いや、明梨は、初め、少し怖がってはいたけどすぐに慣れてちいぱぱと呼んでたよ。陽子さんは明るい性格だからな。初めて会ったその日に今日から叔母さんが貴方達のお母さんになってあげるとか言われてさ。陽子さんから言わせると、俺が幼い頃はよく陽子さん夫婦に会っていたみたいなんだけど、俺はさっぱり覚えていなくてさ。自分が引き取るとか言うのに自分達の戸籍には入れなくて。それも、陽子さんや秋典さんの気遣いだったのかなと今となっては思うよ」   「名字、違うんですか?」   確かに、その話は初めてするかもしれない。   「そう、違う。俺と明梨は実の両親の戸籍のままだから矢神だけど、陽子さんは母親の妹で秋典さんの籍に入っているから水巻って言うんだ」   「そうなんですか」   桜ちゃんはそう言うと何だか良い話ですねと続けた。   それから一年後、俺と桜ちゃんは籍を入れた。式を挙げることになり、上杉と明梨を誘った。桜ちゃんが真理奈さんも招待したいと言うから、真理奈さんと仕方なく森山くんも招待した。社長に報告すると社長も行きたいと言い出したが、そこにたまたま居合わせた真理奈さんに止められて渋々行くことを諦めてくれた。   「桜ねえ。すっごく綺麗だったよ。明梨も早く着たいなあ」   式が終わり会場の外に居ると明梨が走ってきて桜ちゃんの手を両手で取った。   「明梨、走ったら危ないだろ」   「ごめんなさい。桜ねえの姿見たら早く言いたくなっちゃって、つい」   明梨の後に上杉が待ってよと言いながら来た。   「おめでとですん。お兄様」   「うるさい、黙れ」   上杉はうるさい口調で言ってきてすぐにそうつっこむと酷いですんと言った。   「頼むからちゃんと話してくれ」   「わかった。ごめんよ、直」   やっと口調が戻って俺は大きな溜息をついた。そのうちに真理奈さんが森山くんを連れてきておめでとうと言ってくれた。   そして、二次会が始まり二時間程で終了した後、自宅に帰った。   翌日から、また単調な毎日が始まった。朝起きて仕事に行く支度をする。リビングに行くと朝食は用意されていて、愛する人と食事をしてから会社に行く為玄関に向かう。   「それじゃ、行ってきます」   「はい、気をつけて行ってきて下さいね。直樹さん、愛してますよ」   桜ちゃんにそう言われて俺は彼女の体を引き寄せ口づけをする。   「ああ、俺も愛してるよ。桜」   たまに呼び捨てにすることにも慣れた。彼女を離し、仕事に向かう。   一度は別れてしまった。だけど図書館で再会してよりを戻した。   一度別れる前までは何度も彼女の中での自分の存在を一番にしたいと悩んでいた。今でも時々、昔のことを思い出しては嫌悪感に陥ってしまうことがある。そんな時は自分の側に居る彼女を見て心を落ち着かせる。   もしも君が俺と出会っていなかったとしたら、きっと運命は大きく変わっていただろう。他の誰かと出会って恋に落ち、俺の存在を知らないまま生活していただろう。   もしも君と俺が出会わなければ、俺の生活はそれなりに退屈で単調な毎日を過ごしていたことだろう。   こんな単調で幸せな毎日を過ごしていけるのは彼女の存在があるからだ。   もしも君がと考えることはもうやめよう。これから何年、何十年と君と描く未来はきっと幸せだから。 ー終わりー
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