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清い関係?!
「ユキちゃんとは、清い関係でいたいんだ」
習慣とは恐ろしいもんで、俺は考えるより先に『はい』と答えてしまった。
目の前にいるのは、逸崎瑛二さん。
このなんかキラキラしているイケメンは、俺の上司で先輩だ。安普請のアパートの備え付けの安っぽい照明の下でも、その輝きは少しも衰えない。大体普通、職場の上司は当然その職場の先輩なんだろうと思うが、本人のたっての希望で、俺は彼を『先輩』と呼んでいる。
普段は、先輩。時々、エージさん。
先輩は俺を『ユキちゃん』と呼ぶ。プライベートでも、会社でも、誰かに紹介する時も、晴れた日も雨の日も俺は『ユキちゃん』。
因みに俺の名前は、優季だ。
ついでに言うと、先輩は俺のことを” 忠実な白い仔山羊 ”だと思っている。
「よかった。ユキちゃんならわかってくれるって思ってた」
先輩は、満足気に笑った。文字にしたら『うふふ』ってカンジだ。先輩の周りに白や黄色のなんか明るい感じのお花畑がぱっと広がる感じがした。部屋がまたちょっとだけ明るくなった。
「はい」
雰囲気に飲まれて、また返事をしてしまった。
はい、…………はい?
何の話だって思うだろ?俺だってわからない。何のことを言ってるのかは、まあわかる。
言い出すことになった理由にも心当たりがある。だけど、なんでそんなことを先輩が言いだしたのかはわからない。だが、ついでに言うと、言ってることの意味もわからない。わかるようで、わからない。
だって『清い関係』だ。
『清い』って何?『清い関係』って何よ?全然わかってないのに、俺にそれをやれってことだ。俺は一体、何をどうすればいいんだ?
俺はひとしきり考えてから、諦めた。…とりあえず飯を食ってからにしよう。俺は、眼の前のほとんど空になった皿を突きつつ考えた。俺と先輩の関係を。俺達のこれからを。
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