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『清い関係』ってなんですか？！再び
そして今日になって先輩が『清い関係』なんて言い出したことで、俺はあれが、あの時限りの冗談ではなかったと知った。
『清い関係』って、なんだ？
俺は、なけなしの脳細胞を総動員して考えた。おそらく先輩が言うところの『清い関係』とは、名高い古典を紐解けば、きっと『プラトニック・ラブ』と書かれている筈だ。
『肉体的な欲求を離れた精神的恋愛』
いかにも先輩が好きそうな言葉だ。
…ってことは、俺と先輩は、今、恋愛状態なのか？恋愛…そもそも恋愛ってなんだ？
わかりきったことだ、自分以外の誰かを好きになることだ。だが俺の中でそれは、元彼女の一件以来、根本から完全に崩壊していた。
高校入って付き合い始めて二年とちょっと。人生の優に十分の一を俺は彼女の専属としてきた筈だったが、今となっては、彼女のことが本当に好きだったのかどうかもわからない。特に恨みや憎しみはないが、ただ『あんな凄い人間がこんなに身近にいたなんて信じられない』という純粋な驚きと、顔を見たくない、関わりたくないという感情、見掛けたらすぐに逃げられる心構え、それだけだった。あれを恋愛と呼べたのかどうか、俺にはわからない。
先輩のことは好きだ。
唯一無二かと言われれば、今のところはそうかも知れない。今、俺の頭の中に先輩を超えるほどの好意を持てる他人が他にいるかと問えば、いない。
尊敬できる先輩、頼れる上司、そう考えた時に、これは恋愛なのかと疑問が湧く。友達として、人間として、家族として『好き』であることと、恋愛における『好き』との一線を画すのは、肉体的な欲求があるかないかの差ではないかと、つまるところ、セックスできるかどうかだろう、と思うのだ。だが俺は、先輩とセックスがしたいわけではない。そんなことは今の今まで考えたこともなかった。
当然だが俺はゲイじゃない。一般的に愛のないセックスは、この世に溢れているだろうが、性欲の介在しない恋愛がこの世に一体幾つあるだろう。純粋な疑問として、それが子供同士や二次元相手でもない限り、セックスを抜きにして恋愛とやらが成立する状況が俺には想像できない。
ただ、今の関係を継続したいと思う。これは恋愛なのか？
いや恋愛である必要なんてない。先輩は『清い関係でいたい』と言ったんだ。ラブはこの際、脇に置いておいて
『清い関係』は、個人の定義の差こそあれ、多分『肉体関係を伴わない』という一点においてのみ有効な言葉なんだろう。そしてそこから恋愛感情を抜くと……今までと一緒だ。
じゃ『付き合う』ってのは何なんだ？
それって、いちいち宣言しなきゃいけないものなのか？いや、あれこれ考える方が間違いなんだろう。黙ってこの潮流に乗っていれば、俺の望み通り、このままの関係は続くんじゃないのか。
…じゃあ、先輩は何故あんなことを言い出したんだろ？
先輩が俺に性的魅力を感じていないってことなのか？
それはそうだろう。俺は可愛げもなければ、セクシーでもない男だからなｗ
俺だって、先輩に性的興奮を感じたり…？しないさ。
今、隣でスヤッスヤ眠る先輩に劣情を起こせるかと言えば……、俺は床に敷いた布団に包まる先輩に目をやった。綺麗な寝顔だ。だが無理だ。こんなに安らかに眠る人を、今からどうこうしようなんて考える奴は最低最悪の人間のクズだ。そして俺はそんな人間じゃない。勿論、ムラムラなんてする訳ない。
性欲の介在しない、劣情のない、セックスもない上での、付き合っているという関係。
男が仲良くツルんでいる様子。それは行き着く所、単なる『馴れ合い 』なんじゃないのかと思う。
先輩が俺に好意を持っているのは、はっきりとわかる。
だが、可愛がっている後輩、忠実な部下、気の合うメンバー、可愛い白い子山羊のユキちゃん（酔ってる時限定）…全部、先輩が俺に言った言葉だ。
俺は、隣でマネキンのように行儀よく横たわる先輩を眺めた。
綺麗な、作り物のようにツルリと整った顔。暗闇で、くっきりと浮かび上がるフェイスラインは、心持ち自ら発光してるんじゃないかとさえ思える。深く閉じた瞼、眠っていても、どこか表情があって見える寝顔を見つめながら、俺はなんとも言えない気分に陥っていた。
『先輩にとって、俺は何ですか？』
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