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プロローグ
「お前にはもう、何も残ってないんだろう?なら、私のものになればいい」
からからに渇いた灼熱の砂の上。
痛みを感じるほど突き刺す凶悪な太陽の光を背にして青年は少年を見下ろす。
彼は、朗らかにかつ傲慢に言い放った。
左頬から口元をべたりと砂につけていた少年は、砂をじゃりと噛みながら薄目を開けていた。
熱でぐにゃぐにゃと歪んだ視界に近づいてくるのは革のブーツだ。上等の。
少年は今までの経験から蹴られるのを予測して体に力をこめる。
痛みを瞬間的に覚悟した背中に触れたのは痛みではなかった。
青年は自分の頭巾(クーフィーヤ)をひらりと外すと少年の赤くなったうなじから腕を守るようにかけた。
視線だけで見上げた青年の表情は驚くほど、優しい――
ずっと?
唇の形だけで聞く。
青年はくしゃりと顔を歪めた。
「――ずっとだ」
笑った瞳が砂の色と同じで、それだけで泣きたくなった。
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