何故敬語と言われても

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何故敬語と言われても

「……夜都」 「なんだよ」  学校内を歩いていると、呼び止められた。  陽沖碧夜さん。俺達の一個上の先輩で、友人の烙銀の元従者で、親子揃って月代家に勤めている奴。  髪色が普通じゃないせいだろう。浮世離れしているそいつに、何故か度々声をかけられる。 「……将季は……何故俺に敬語を使う?」 「……あんたが、上級生で、恩人で、尊敬してて、本来なら自分が近づくのなんて恐れおおいとか思ってるからじゃないの」  若干つっけんどんになってしまったが、こうもなる。将季……俺の幼馴染みである木田将季は、こいつに惚れてからというものの、人を告白の練習台にし、恋の相談をし、惚気話をする相手と定めている。  相談も惚気も、まあわかる。俺だってしたいときもある。でも、練習台は……辛い……練習とはいえ、男に告白される俺。一度うっかり事情を知らない奴らに見られ、噂になりかけた。死ぬ思いで誤解は解いたけど。 「……? 上級生はわかる。でも、他は……?」 「……あんた自分に信者いるのわかってるだろ。あいつの状態はそれに近いけど、他の奴らよりはまだ距離が近い」  どういうわけかわからないが、碧夜さんにはファン……通称信者と呼ばれる奴らがついている。それはいい。木田の奴は、それと同じような状態になっている。信者と違うのは、信者よりも距離が近く、話すことも一緒に行動することも多いということだ。勉強も教えてもらえるし。 「……距離が近いと……どうなる」 「ヤキモチを焼く一部の信者VS木田と木田が巻き込んだ俺達の図の完成だ」  一度、木田がヤキモチ焼いた信者に、「お前は碧夜様にはふさわしくない!」とキレられ、友達思いの田辺がぶち切れかけたことがあった。烙銀が駆けつけてくれたからよかったものの、うっかりすると信者と木田・田辺の間に立っていた俺がやられていた。 「つーか、あんたがハッキリすれば丸く収まるんだよ。あいつがウダウダしてて見てて面倒だからもう聞くけど、あんた木田のことどう思ってるんだよ」 「……可愛い後輩?」  あーもう! そうじゃないんだよなー! めんどくせーなー! 「そうじゃなくて、恋愛感情あるのかないのかって話」  そう聞くと黙ってしまった。あ、これ……なんか、処理に困ってる感じ……。めんどくさ……。 「じゃあ、俺のことはどう思う」 「……可愛い後輩」 「湊さんは」 「……………………父さんは……別に、可愛くない……」 「可愛いか可愛くないかでわけんな。俺が聞きたいのはそうじゃないんだ」  首を傾げられた。 「わかった。じゃあ好きか嫌いかで答えてくれ。俺と木田ならどっちが好きだ」 「……? ……」  答えが返ってこないので、俺は最終手段をとることにした。 「あんた、木田のこと抱けるか?」 「……だ……抱け……? ……!?」  さすがに意味がわかったようで、若干顔を赤くした。これは……。 「……あーもう、わかったよ。ごちそーさん」  めんどい。疲れた。その一心で、俺はもう答えはいいというように、手を払った。 「……や、夜都……その、結局、将季は何故俺に敬語を……」 「……あ」  問題が変わっていることに気づいてなかった。俺は仕方なし、もう少しだけ付き合うことにした。  誰か面倒見のいい俺を褒め称えてくれ。疲れた。
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