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俺の弟
弟の繭はよく、人形の服を作っている。人形といっても、玩具屋や専門店で売っているようなものではなく、自作。サイズもそこそこ大きいので、市販のものでは間に合わないらしい。
服だけならわかるけど、人形も作れるなんて器用なんだな、と思っている。周りも多分俺と同じ気持ちだ。
人形作りなんて、頭も体力も金も使いそうなのに。
「繭ー」
「何、兄さん」
「服破れた」
引っかけて破れた箇所を見せる。繭はため息をついて「また器用なところを……」と言った。
「普通女官さん達に頼まない?」
「忙しそうだったから……」
「……俺が暇人みたいに言われるのは心外なんだけど」
ごめん? と言うと、なんで疑問形と言いながらも道具を取り出し、縫い始める。
「繭に任せると早いからいいんだよな。女官達って何気に忙しいから後回しになること多くて」
「それでそのまま忘れたりね。普通なら怒られるけど、うち緩いからね」
他の大きな家と比べるとだいぶ緩そうな我が家は、繭の趣味に寛容だ。食事も取らず眠りもせず、かわりに昼間寝ていたとしても、その趣味をとがめることをしない。……行きすぎなくらいとなると、さすがに止めるが。
「なあ繭」
「何」
「お前将来服飾関係にいくのか?」
俺の言葉に、繭はうーんとうなる。
「服作るのは単なる趣味みたいなものだから、別にこれで稼ごうとは思ってないし。それに俺って将来的に兄さんの手伝いになるんじゃないの」
「関係的に親父と神月さんみたいな形ってことだろ? 別にそこまで真似しなくてもいいだろ。将来食うのに困ったときに戻ってくればいいだけじゃねーの?」
「一理ある。兄さんが俺のサポートなくて大丈夫なら、俺は別の道行くけど?」
こいつなんだかんだと、俺のサポートするのが好き……というか、楽でいいらしい。わからないわけじゃない。
「俺は俺と月代家のことでお前のこと縛りつけるつもりはないぞ。親父とジジイがどう考えてるのかは知らないけど。特にジジイ」
「じいちゃんも別に俺のこと月代家にとどまらせようとは思ってないみたいだよ。兄さんに関してもだって」
「は? 俺がここ継がなかったら誰がやるんだよ」
「……はぁ」
突然のため息に俺が首を傾げると。
「前々から言おうと思ってたんだけど、じいちゃんも兄さんも俺のことお互いの気持ちの伝達に使うのやめてくれない?」
「……ご、ごめん?」
たしかにどうにも納得いかないときには繭があれこれ言ってきていた気がする。ジジイの肩もつんだなと思っていたら、そうでもないみたいだし。
「まあいいけど。慣れたし。そうしないとお互い素直になれないみたいだしね。……まったく、思春期の男女じゃあるまいし……」
「お前……俺とジジイのことそういうふうに思ってたのか……」
今度は俺がため息をつく番だった。繭とは、別の意味で。
「で、結局将来は?」
「うーん……ここ出てもいいみたいだから、何か探して一人暮らししようかな」
「は? 出るの?」
「……兄さん……。縛りつける気はないけど、出てはほしくないんだね……」
ハッとした。俺もちょっと繭に頼りすぎるのはどうにかしなければ。
兄さんらしい、と言った繭の優しい声色は、しばらく忘れられそうにない。
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