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独唱曲
青年は目を開けた。
未だ、空からは深々と灰が降っている。
身体を起こすが、奇跡的にかすり傷だけで動ける。
降り積もった灰の山が受け止めてくれたようだ。
「悪運が強いのか、死ぬべき場所で死ねという事なのか……」
自嘲気味に笑い、青年は立ち上がり歩を進めた。
空が狭くて遠い。
見回すまでも無く谷底であった。
考え方によっては、『ユニオン』と遭遇する事も無いと言える。
徐々に狭く細くなる谷底の道だが、進む先に光が見えていた。
壁を抜け出るように拓けた場所に出た青年は、絶句する。
周りを崖に囲われた、自然の牢獄とも言い表せる場所。
その灰色で覆われた大地の上に、折り重なるようにして無数の『ユニオン』の死体が無造作に転がっていたのだ。
死体は大小異なり、中には人型の物まで混ざっている。
凄まじい数と、漂う腐敗臭に青年は顔を歪めた。
『ユニオン』の素材は生きた人間だと聞いた事がある。
そして、実際に生物兵器として育つのは、半数以下だという事も。
恐らく、ここに有る死体は廃棄された物だろう。
「そういえばお前達も、犠牲者だったな……」
青年は、自らの右手の甲の花の刺青へと視線を落とす。
互いに国の為に闘い、無惨に命を利用された。
哀れな犠牲者達。
「ん?」
その時。
青年は視界の端に、動く物を捉えた。
身体ごと振り向くが、有るのは死体の山のみ。
気のせいにして立ち去ろうと考えたが、今度は丁度目の前で、モゾモゾと動いて見せた。
それは、頭の頂上から爪先まで包帯のような呪印にくるまれた人型の何か、であった。
まだ息が有るのか。
投棄されてから日が浅いようだ。
青年は暫く、何かを眺めていたが。
非情な世界で小さな情けを掛けた。
せめて、今の空を見てから死んで欲しかった。
包帯を外し、逃げれば良いとまで考えていた。
頂上の呪印を外すと、全身の包帯は一気にゆるんだ。
現れたのは。
「お前、感謝するぞ」
目の錯覚か、美しい少女の顔であった。
少女は立ち上がると、身体に包帯を巻き付けたまま、後方へ大きく宙返りをし、『ユニオン』の死体の山の上に着地した。
その勢いで全身の包帯が外れ、彼女の翡翠色の髪が旗のように靡いた。
これが、彼女との。
後に青年の妻となる、アリアとの出会いである。
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