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 和平条約締結から、一年後。  稼働中の『ユニオン』の駆逐が行われ、物流が安定し、少しずつ世界が変わってきた頃。  霊峰から離れた田舎街で、赤毛の少女が鍬を片手に畑を耕していた。 「おーい、マリーさん!」  すると、少女……マリーは、鍬を持った男性に声を掛けられた。  汗を拭って話を聞くと、なんでもマリーを探しているという一人の少女が家を訪ねているらしい。 「直ぐに行きます!」  マリーは鍬を放って、自分の家へと走った。  訪ねて来る人物に心当たりがあったからだ。 「ごめんなさ~い!」  マリーは息を整え、家の前に立っている翡翠色の髪の少女……アリアと合流した。  アリアは目を丸くしたが、直ぐに笑いに変わった。 「お前が、マリーか?」 「はい、そうです。貴女がアリアさん、ですね」 「驚いた。私を知っているのか?」 「あの、詳しい話しは、中で」  そう言われ、アリアは家の中へと招かれた。  アリアが訪ねて来る事は、青年との手紙のやり取りで知っていたのだという。  戦争で両親が他界し、青年が兵隊となってからは、マリーは一人だったらしい。  独りで暮らすには広い家は、幾つも部屋があった。  水を一杯貰った後、アリアは青年が使っていたという部屋に案内された。 「確かに、アイツの匂いがするな……」  椅子に腰掛け、何処か懐かしい雰囲気に包まれたアリアは、目の端に涙を浮かべて暫く過ごした。  来て良かったと思う。  それから、青年が読んでいた本や愛用の机、羽ペンを次々と手に取り、思いに更ける。  自分の気持ちが今も変わらない事を確認したアリアは、早々に立ち去る事にした。 「もう、良いんですか?」 「ああ。アイツの匂いを思い出せたからな。これ以上居たら、私は駄目になる」 「これから、何処へ?」 「少し、世界を回ってみるつもりだ。アイツの守った世界を、私は見てみたい」 「そうですか。では、アリアさんにコレを」  マリーはそう言って、封筒を差し出してきた。 「兄が、アリアさんに向けて出した物らしいです」  裏返すと、確かに『アリアへ』と書かれている。 「ん、分かった。貰って行くよ」  アリアは封筒を丁寧に鞄へと仕舞い、マリーに手を振った。  のどかな麦畑の風景を眺めながら歩き、荷馬車を捕まえて乗せて貰った。  空は青く晴れ渡り、太陽は光の枝を伸ばす。  その恩恵を受けた大地を駆ける荷馬車の上で、アリアはマリーから受け取った封筒を取り出し、開いた。 「……っ!」  中に入っていた物を見て、アリアは思わず片手で口元を覆った。  ポロポロと、溢れた涙が封筒に滴り落ちる。  どうにか嗚咽を堪え、一緒に入っていた短い手紙を開く。 『直接渡せなくて、すまない。俺は今でも君の事を、愛している』  その手紙の文字も、滲んでいく。  温かい涙で。 「ああ……私もだ……」  アリアは、封筒に入っていた指輪を握り、胸の前に引き寄せた。 「私も、お前の事を……愛している……!」  Fin
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