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Prologue:Unknown Impulse
――この瞬間、世界は彼と私、二人だけのものだった。
遠くで響いているはずの銃声も、爆発音も、叫び声も、今だけは聞こえなかった。
……いや、本当に音が止まっていたわけではない。ただ、私も、そしてきっと彼も、別の音を聞くことに集中していただけ。
すぐ近くで立てられる、お互いの呼吸音に。
そのとき私の中に湧き上がっていたのは、ある衝動的な欲望だった。幾千もの敵兵を手にかけてきたのに、一度たりとも感じたことのなかった、その想い。
殺意。
殺したい。目の前の彼を。引きたい。彼のこめかみに構えた銃の引き金を。粉々にしたい。私に覆い被さって笑っている彼の顔を。
動いたら撃つ。動けば撃たれる。こんなときなのに、私の頭の片隅に全く場違いな感想が生まれる。
……綺麗な瞳。
銃声が響いた。
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