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「さあ、着きましたよ。降りてください」
ガイドにうながされるまま、ケンジは降りる。高い5つのビルの中央で降ろされたようだった。
眩しい光がケンジ達5人を照らす。
ケンジを目を細め、空を仰ぐ。
見上げた空は雲ひとつなく晴れ晴れとしていた。
きれいな色だな……
通常、会社以外は自宅に引きこもるケンジにとって、この国の空はとても澄み切った色に見えた。
「さて、皆さん。地下に行きますよ」
ガイドに連れられるまま、エスカレーターでケンジ達4人は地下に降りる。地下はいろんなレストランが集まっており、観光できるものがあるようには見えなかった。
「こんなところに噴水なんてあるんですか?」
ユリが不満げに文句を言う。
しかし、ガイドはそのような苦情は慣れてるのか、笑顔をユリに向けると建物の中央を指差した。
「噴水はあの中央部分になります」
ガイドが指をさした方向を見るとガラス張りになった空間があった。
微かだが水の音が聞こえる。
「確かに水の音が聞こえるわ。上杉さん、行きましょう!」
「え?」
ユリは強引にカナエの腕を掴むと中央部分へずかずかと歩いていく。
やっぱり橘さんはレズなのか??
ケンジがそんなことを思っていると、後ろにいたハンサムな係長が口を開く。
「上杉も、あの子には困ってるみたいだね」
そしてケンジに笑いかける。
「さあ、山元くん。私たちも噴水を見に行こうか」
タカオはそう言うと、ケンジの側を通り、ユリ達を追って中央へ歩いていく。
「待ってください。僕も行きます」
武田係長って本当不思議な人だよな。
こんな噴水に興味があるなんて……
ケンジは不思議に思いながら、慌ててタカオの後を追った。
「さあ、皆さん。お楽しみの光の噴水です。願い事が決まりましたか」
ガイドはそう言いながらケンジ達4人を中央の空間の中に案内した。
ガラス張りのドアを開けると、太陽の光がケンジ達を照らす。
しかし思ったように熱く感じなかった。
噴水が中央にあり、その周りに水が張ってあるので、体感気温を低めているようだった。
「噴水の周りを3回、回る間に願いごとを心の中で唱えてください。きっと叶いますよ。私はここで待ってますから」
ガイドはそう言うと、噴水から少し離れた場所に立った。
噴水に向かって石の道が作られてる。
5つのビルが周りに見えた。
「さあて、何をお願いしようかな」
ユリは嬉しそうにそう言う。
そしてケンジ達はガイドに言われたように噴水の周りを回し始めた。
僕はこの現実世界が嫌だった。
会社に行くのがいやだった。
ずっと家でゲームの世界のような魔法の世界に住んでいたかった。
でもまさかそんな願いが叶うなんて思わなかった……
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