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そんなマリがボケる前にと頭を使い始めた。
ーー小説。
マリは小説を書き始めた。温かかった昭和を知る人だからこそ、今のこの時代に足りない〝人とのふれあい〟について、心を動かす優しさを題材とした作品を書いた。
書き始めたら止まらない執筆。全ては原稿用紙に綴られる。
80歳になってから始めたことが珍しいと地方メディアは取り上げ、出来上がった作品を紹介した。
マリは、現代に足りない〝人と人との温かいふれあい〟は、我が国のみならず世界全土において足りてないように思えてならないという。
なぜみんなが幸せになれないのか、なぜ傷つける行為をするのか、みんなが笑えばみんなが楽しいはずだろうと、嘆き哀しむ。
それから5年。
ボケる前にと始めたマリは、まだボケずに新しい小説を書いている。
しぼんだ風船は、また膨らみ始めた。
一度出来たシワを伸ばすように新たな空気を吹き込み、ピンと起き上がる風船。
膨らんだ風船はいつかまた新しくシワを作り、今の人たちにきっと何かを伝えていく。
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