#2 - LA自然史博物館

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 3  翌日の夜一〇時。  私はミシェルを連れて、LA自然史博物館へと赴いていた。  既に本格的な調査を許可されているので、いつでも館内に入ることが可能なのだが、アネットだけ先行して館内に入って様子を見てもらい、私達は正面の入口前の広場で待機している。  その理由は二つ。  一つは、やはり不用意な調査作業は危険だと分かったからだ。  夜の自然史博物館は昼のそれと違い、建物全体から妙な雰囲気が漂っている。  それも、まるで墓場の如き鬱屈とした空気がパーク全体に充満しており、夏の夜であるというのに寒気すら覚える程だ。  明らかに異様、そして異質な空間が形成されている。  ある種の結界に近い現象が発生している様だ。  そして二つめの理由は、今回の「助っ人」を待っているためだ。 「ジョン! アネット! ミシェル! お待たせ~」  ふとどこからか女性の声が聞こえ、その源に視線をやると、見覚えのある銀河色の髪の美女がこちらに手を振っていた。  万人が魔性の美女と称するであろうその美貌と雰囲気は、いつ見ても息が漏れる。  その隣には体格の良い男が、辺りを見渡しながら少々険しい表情を浮かべて歩いている。 「ジニーさん!」 「ハァーイ、ミシェル! 二週間ぶりね。元気してた?」 「よく来てくれたなジニー。助かるよ」 「気にしないで。これもちゃんとエクスシアの仕事なんだし、協力要請には可能な限り応じる決まりだからね」  今回、事件調査にあたりエクスシアエージェントのジニーに協力を要請した。  昨日マルコムに状況と概要を説明した結果、今回の件が『魔人犯罪(デモニックケース)』である可能性が高いと分析され、であれば今回の様な事象にはジニーに協力を要請すべきというマルコムの意見を基に、彼女に要請を出したという経緯だ。  事実、ジニーは光の巫女として北欧魔術を中心に様々な魔術と超常存在の知識に精通しており、共に仕事をしてくれるなら百人力である。 「あれ? アネットは?」 「先に中の様子を見に行ってもらっているよ。昼は大丈夫だったが、夜は危険があるかもしれないからな」 「なるほどね~。あ、紹介するわね。コイツ、私の玩具」 「誰が玩具だコラ」  ジニーの隣に立つ険しい顔の男、彼女が自らの玩具と称したその男は、彼女の仕事のパートナーだ。  体格が良く、白人よりもさらに白い肌と黒髪を持つ男。  呪受体質の半吸血鬼(ハーフヴァンパイア)。  会うのは初めてだが、名前やどういった人物なのかは理解している。  名前は確か――。 「そちらはヘンリー・T(テキサス)・ジョーンズで間違いないか? 君も来てくれてありがとう」 「テックスでいいぜ。そういうお前はFBIのジョンだろ? 噂は聞いてるぜ、嵐の王さんよ。で、そっちのガキは……ああ、お前も捜査官なのか。気に障ったら悪い」 「いえ、よく言われるので気にしないで下さい。初めまして、ミシェル・レヴィンズです。ジョンさんの相棒です。今日はよろしくお願いいたします」 「テックスだ、よろしくな。しっかしここは随分と辛気臭えな、鼻が曲がりそうだ」 「そうなのか? 確かに墓場の様な雰囲気はあるが……」 「ただの墓場なら良かったんだが、死臭みてえのが混じってんだよ」  握手を交わして挨拶しながら、互いに相手の情報の正誤を確認する。  どうやら彼の表情が先程から険しいのは、嫌な臭いがするかららしい。  彼の嗅覚が何か良くないものを察知しているのだろう。 「こういう手合いは触らねえのが吉なんだが、そういうわけにもいかねーんだろ?」 「ああ。既に犠牲者が出ている以上、野放しにする訳にはいかない。可能なら今夜中に、少なくとも解決の糸口だけでも見つけ出したい」 「どうするテックス? 帰って呪い漬けでもする?」 「ふざけんな、それならこっちで悪魔共の相手する方がマシだ。しかしあれだな、『夜の博物館』っつーと、字面からあれ思い出すな」 「ショーン・レヴィのやつか? こっちにはルーズベルトもアクメンラーも居ないからなぁ。厄介なことにT-レックスはいるが」 「お! 知ってるのか? 中々面白いよなあれ。ジョンは映画見るのか? もしかして、ジョンって名前はコンスタンティンから取ったのか?」 「いや、ジョンは本名だ。だがどちらも好きな作品だ。君こそ好きなんだろ?インディーが」 「おお! やっぱり分かる奴には分かるもんだな。初対面だけど、お前とは仲良くやっていけそうな気がするわ」 「奇遇だな。俺もだ」 「ちょっとちょっと? くだらない話は後にして、調査方針だけでも共有してくれないかしら」  先程よりも力強く握手を交わす私達を、ジニーが酷く冷めた目で見つめていた。ミシェルもどこか困った顔をしている。  少し熱くなり過ぎた様だ。  テックスとの映画談義は、事件が解決してからにしよう。  当然調査が先決だ。 「ああ、すまない。まずは状況の共有からしようと思う……っとその前に、もう一人来るはずなんだが――お、あれかな」  今回の調査に参加する人員は、私達超常課二名とジニー達に加え、もう一人協力者を呼んでいる。  前日に急な連絡をしたため来てもらうのは難しいかとも思ったのだが、本人は非常に意欲的で是非協力させてほしいという返事をもらったので、今夜の調査にも参加してもらうことにしたのだ。  その人物は昼に見かけた警備員達と同じ制服を身に纏っており、博物館の横手からこちらに向かって駆けてきている。  そちらに向かって手を振ってやると、彼は更にその足を速める。  やがて我々の前までやって来ると、素早く敬礼した。 「――すみません。お待たせしました」  今回の事件の通報者であり、夜間警備員のマイク・キャンベル氏だ。
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