決して暑いとは言わない君と僕との風

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__2年前 その年の夏、騒がしい教室の中でクラスメート達は口を揃えて暑いとばかり言っていた。 確かに僕もシャツが汗のせいでピッタリ体に引っ付いていて暑いとは感じていたが、話のネタがそれしかないのか、ほかにあるんじゃないかと、なぜだか不快感が心のどこかにもやもやとあった。 そして、僕は決して暑いとは口にしなかった。 今思えばそれはただ、自分は他の奴らとは違う、そんな優越感に浸りたかっただけっだったと思う。 けど、なぜかそれをやってる奴は、もう一人いた。 僕の後ろの席の湊彩芽(みなとあやめ)だった。 最初はそれほど気にしていなかった。 だけど後ろから聞こえる話に耳を傾けると彼女は、たとえ友達に暑いかどうか聞かれても答えは出さず、暑いとは決して口にしていなかった。 「…?永久くん、何か用?」 彼女に話しかけられてハッとした。 どうやら彼女のことを考えていたら無意識に見ていたようだった。 「あ、えっと、湊って暑くないの?」 僕は口から出まかせに言ってしまった。 「え?」 「いや、あんまり暑いって言わないなーて思って」 急に僕は何を言っているんだと思った。 まるでいつも話を盗み聞きしてると勘違いされて軽蔑されるかもしれない。 大失態だ。 「逆に、永久君は暑いの?」 「へ?」 予想外の言葉に僕はさらに動揺した。 そして彼女がなぜか大きな瞳をさらに見開いて興味深々で僕を見てくるので 「えっと、まあまあかな。なんて」 ついに自分の中にあった掟を破ってしまった。 いや、暑いとは言っていないからセーフなのか? いやいや、そんなことはない。 そう思い悩んでいるといつの間にかチャイムが鳴り、授業が始まったので慌てて準備をした。 いざ口に出すとなんだか本当に暑く感じてきた。 やっぱり、口に出すんじゃなかった! そう思っているとその時、後ろからふわっと生ぬるい風が吹いた。 びっくりして振り向くとそこには教科書で僕を扇いでいる湊がいた。 彼女はいたずらな笑みを浮かべながらさらに僕のことを扇ぎだした。 彼女の半袖の制服が風と一緒になびき、ふわっと風が僕へと向かってきた。 暑苦しい教室の中で、それは少しだけ、甘酸っぱい青春の匂いがした。
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