決して暑いとは言わない君と僕との風

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その風は少しだけ、甘酸っぱい青春の匂いがした。 夏の暑さのせいか、家の時計が壊れてしまったので、僕、鈴木永久(すずきとわ)はしぶしぶ近所のショッピングセンターへ来ていた。 夏休み中ということもあり、辺りは大勢の家族連れでにぎわっていた。 ショッピングモールはキンキンにクーラーが効いていて、外の蒸し暑い空気を入れないためか、窓は閉まっていた。 時々吹く風は、クーラーからの冷たい風。 そんな人工的に作られた環境に僕は少しだけ息苦しさを感じる。 その時、後ろからふわっと生ぬるい風が吹いた。 ビクッとして振り向くとそこには商品として展示されていた、数台の扇風機があった。 風の強さを表す紐がたなびいている。 「なんだ」と僕は拍子抜けした。 その風が運んできたかのように、不意に思い出してしまった。 2年前、高校3年の夏を。 その年の夏は地球温暖化のせいか、何なのか北海道なのにやけに蒸し暑い夏だった。 クーラーのない教室には窓からの生ぬるい風さえも吹かなかった。 吹いたのは、教科書によって人工的に作られた風だった。
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