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その日は白川朧依にとって、いつもとさして変わらない一日となるはずだった。
午前中は、勤務先の大手上場製薬会社で報告書を粛々と作成していた。今の研究からオメガを救う新薬が生まれればいいが、そもそも数多ある新薬候補の中で実際に製品化されるのは一万分の一、あるいはそれ以下ともいわれている。現在、朧依が携わっているプロジェクトも前臨床研究に進めるかどうか、危ういところだ。
何か突破口があれば…そう思っていた矢先、大学時代の指導教官から呼び出しの電話がかかった。
アルファ、ベータ、オメガという第二の性に対して偏見を持たず、優秀であればベータでもオメガでも分け隔てなく熱心に指導すると評判の大学教授。オメガである朧依も、優秀な教え子として就職先を探すときに強力な推薦状を書いてもらった。今もこうして自分に目を掛けてくれる、大事な恩師である。
「この前出席した学会で、陳先生からちょっと面白い情報を仕入れてきたもんでね。まだ公表されていないけど、白川君にとっては朗報だと思う。君が今やってる研究の役にきっと立つよ。」
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