鬼子童子・神野闇己

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「私が闇己様に紹介したいあやかしと言うのは、菊緒(きくお)という金色(こんじき)の妖狐です。彼女は私の妹で、神に仕える身分でしたが、ある事件をきっかけに追放されています」  眉根を寄せ、複雑そうに語る蓮。 「しかし、神職と契約して再び神に仕える身になるのなら、追放も解かれるでしょう」  度々出てきた“追放”という言葉が気になる闇己だが、蓮が語らない以上は踏み込むべきでないと判断した。 「人間不信の塊のようになっていますから、一筋縄では行かないでしょう。ですから、この札をお持ちになってください。他のあやかしからも闇己様をお守りします」  蓮から達筆な文字で呪が書かれた札を受けとる。  禁殺傷の(まじな)いが書かれているようだ。 「菊緒の説得はお任せします。気難しい子ですが、真面目でいい子なのです。万に一つ、失敗されても他のあやかしや狛犬を紹介しますので、思い詰めずに……」  蓮はそう言って(うやうや)しく頭を下げる。  妹の事が気になる様だが、人間界から追放された身分の彼女に気軽に会いに行けるほど自由な立場ではないのだろう。  蓮から預かった札を懐にしまい、闇己は彼に向き直る。 「蓮殿、ありがとうございました。菊緒殿と会って話をしてきます」 「(かしこ)まらないでくださいませ、闇己様。あなたは我が主、春海様のご子息。私にできることがあればいつでも頼ってくださいませ」  そう言って蓮はにこりと微笑んだ。 「さぁ、心の準備が宜しければ向こう側――あやかし世界へと繋がる門を開けましょう。帰りはそのまま戻ってこれますのでご安心ください」  蓮が手をついて綺麗なお辞儀をする。  彼に門を開けてもらい、闇己はあやかしの世界へと進んでいった。
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