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金色妖狐・菊緒
あやかしの世界は、薄暗く、どことなく空気が淀んでいる以外は狭間の世界と変わりなかった。
金色の妖狐・菊緒を探して歩く闇己だが、半刻ほど歩いてもいっこうに何者とも出会わない。
寂しい森の中を歩きながら闇己はため息をついた。
「守り札があっても負担が大きい。やはり人の身でこちらに長居するのは良くない」
ぽつりと呟き、戻るかどうかを思案する。
あやかしたちの障気が濃くなってきていることもあり、人の世に戻る体力を考えるとそろそろ限界だろう。
闇己が踵を返そうとしたその時、木の上から一匹のあやかしが姿を現した。
「人間の餓鬼がこんな所に何の用だ? 迷い込んだって面じゃねぇよな」
長い金色の毛並みに、犬のような耳。そして九本の尾。
九尾の金狐が闇己に声をかけてきた。
「黙ってんなよ、餓鬼! オレは聞いてるんだぜ?」
口は悪いが、声の高さから彼女が雌狐だと判断した闇己は頭を下げた。
「おいおい、何のマネだ? ……っ、この気は兄貴の」
闇己に手を伸ばそうとするが、結界に阻まれてしまう。
「やはり、あなたが菊緒殿か」
彼女の言葉を聞いて闇己は顔を上げた。
金狐・菊緒は苦しげな表情になる。
「オレが追放されていると知っているのに、わざわざ来たのかよ」
不快そうな顔を作り、菊緒が問いかける。
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