金色妖狐・菊緒

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 神に仕えていたはずの菊緒が人間を嫌うようになったことと、追放された理由は深く関わっていることを闇己は察した。  蓮から話を聞いた時点で既に予想はできていたことだ。 「あなたが人の世を追放されたということは蓮殿から聞きました。理由についてはうかがっていません」  丁寧な口調で答える闇己を見て、菊緒は舌打ちをする。  だがそれ以上の悪態はつかず、静かに口を開いた。 「俺が仕えていたのは、ある地域の土地神だった。信仰も厚く、村は栄えて穏やかだった……伝染病が流行るまでは。病が村人たちを(むしば)み、やがて信仰が途絶えた」  苛立たし気な表情で歯を噛みしめる菊緒。  長い犬歯がギリッと音を立てた。 「もっと悪いことが起きたのはその後だ。伝染病――流行り病を止められながった神を村人は責め、社を焼き払ったんだ。主に頼まれ、別の村に伝染病のことを調べにいっている間にな」  流行り病をおさめることができなく信仰が途絶えるなら、ままあることだ。  だが、菊緒のいた村はそれだけで終わらなかった。  辛そうに話を進める菊緒。  彼女にかける言葉が見当たらず、闇己はただ黙って見守るしかない。 「当然、御神体も燃えちまったよ。焼け跡からも見つからなかったしな。オレの主は、人間どもに焼き殺されたんだ」  菊緒の瞳に宿る暗い炎。  よどんだ瞳は虚ろで、しかし、怒りと悲しみを混ぜた炎を孕んでいた。
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