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「だからオレは伝染病ごと村を焼き払ってやったんだ。三日三晩――全てを焼き尽くすまで、オレの炎は消えなかった。追放されて当然だ。主を殺されたとはいえ、人間共に害を成したんだからな……。おい、ガキ、今の話を聞いて尚、オレに関わるのか」
菊緒は一気に語り、問いかける。
既にその瞳には感情が消え、空っぽだった。
「それでも私はあなたが欲しい」
虚ろな菊緒に闇己が返したのは一言。
「な、何を言ってるんだっ!」
告白じみた返答に彼女は慌てる。
だが、そんな菊緒の様子になど構いもせず、闇己は再び口を開く。
「菊緒殿。あなたが仕えていた神の御神体とは、木像ではありませんでしたか」
「ああ、そうだが」
ほんのりと頬を染めた菊緒が問いに答えた。
闇己の質問の意図がわからず、じっとその先の言葉を待つ。
「私も、菊緒殿が話してくださった村の事を聞いた覚えがあります。ただひとつ、違うところがありました。御神体の木像は、社が燃え落ちる前に信者の手によって川に流されたと」
火の手が社に回る前に御神体を運び出した者がいた。
「その同時期、川の下流にある湖で木像の御神体がみつかり、下流地域の者たちが湖のほとりに社を建てて奉ったという伝承があります」
闇己の言葉を黙って聞いている菊緒は、放心しているようにも見える。
失った主が、まだ存在している可能性が見えてきたからだ。
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