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「実際にその社に行ったことはないけど、そこへあなたを連れていくことは出来る」
「その見返りに力を貸せってか? いいの、乗ってやる。ただし、その社の神がオレの前の主でなかったら契約は無効だ。その条件でもいいのなら、オレはお前の式として、社の神――稲荷に仕えると誓おう」
菊緒が長い犬歯を見せるように笑う。
闇己は言葉の代わりに頷くと、利き手の人差し指の先をを歯で噛みきり、菊緒の口元へと運んだ。
「交渉、成立だな」
闇己の指から滴る血を舐め取りながら菊緒は笑う。
血を与えることで契約を交わしたのだ。
眩い光が二人を包む。
「契約完了だ。今この瞬間から契約が破棄されるまで、オレはお前の僕となろう」
再び、神の使いの座におさまった菊緒。
それにより人間界からの追放も解除されたようだ。
「早速で悪いが闇己様、前の主の元へと案内していただこうか」
口調は丁寧になったものの、菊緒の態度は変わらない。
彼女は闇己を抱え狭間を飛び越えると、人間の世界へと戻ってきた。
「目的の社は何処に?」
「北北東に三里半ほど。町中の石の鳥居のある神社だ」
菊緒は闇己を抱えたまま、街の上空を駆けていく。
夕刻の薄闇に紛れることで、目立たずに目的の社へと到着した。
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