金色妖狐・菊緒

4/4
前へ
/10ページ
次へ
「実際にその社に行ったことはないけど、そこへあなたを連れていくことは出来る」 「その見返りに力を貸せってか? いいの、乗ってやる。ただし、その社の神がオレの前の主でなかったら契約は無効だ。その条件でもいいのなら、オレはお前の式として、社の神――稲荷に(つか)えると誓おう」  菊緒が長い犬歯を見せるように笑う。  闇己は言葉の代わりに頷くと、利き手の人差し指の先をを歯で噛みきり、菊緒の口元へと運んだ。 「交渉、成立だな」  闇己の指から滴る血を舐め取りながら菊緒は笑う。  血を与えることで契約を交わしたのだ。  (まばゆ)い光が二人を包む。 「契約完了だ。今この瞬間から契約が破棄されるまで、オレはお前の(しもべ)となろう」  再び、神の使いの座におさまった菊緒。  それにより人間界からの追放も解除されたようだ。 「早速で悪いが闇己様、前の主の元へと案内していただこうか」  口調は丁寧になったものの、菊緒の態度は変わらない。  彼女は闇己を抱え狭間を飛び越えると、人間の世界へと戻ってきた。 「目的の社は何処(いずこ)に?」 「北北東に三里半(さんりはん)ほど。町中の石の鳥居のある神社だ」  菊緒は闇己を抱えたまま、街の上空を駆けていく。  夕刻の薄闇に紛れることで、目立たずに目的の社へと到着した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加