紫陽花

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これは僕にとってはありがたい。 親とはうまくいってなかったから。 でも、 いずれは、 成人したなら、 大学を卒業したなら、 自分のことは自分でなんとかしたいと思っていた。 だから、 公務員になる。 なんで公務員かっていうと、 くびになることが無い。 僕のような人間を、 くびにすることが出来ない。 普通の会社ならきっと、 こんな僕はすぐに首切りの対象だろう。 でも公務員には、 一度職員になってしまえば、 首を切ることは出来ないんだ。 僕は黙々と授業をメモる。 でも、 時々気になることがあった。 この簿記の先生、 まだ30代の男性でいかにもモテそうな感じの外見。 授業の内容も分かりやすく生徒に人気がある。 その人が何故か、 何度も僕の方を見る。 説明しながら、 僕の目を見つめる。 しっかりと強い視線で・・・ 僕はその都度慌てて視線をそらす。 そしてしまいにはずっと視線を下にしたまま、 黒板の内容だけを書き取る作業に没頭した。 先生の方を見ないようにしながら・・・ いつも一人で暗い僕のことを、 気にしてくれているのだろうか。 でもそれは僕には余計なお世話なんだ。 気にしてなんて欲しくないんだ。
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