紫陽花

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空腹を埋めるためだけの、 パンと牛乳だった。 それが、 彼と一緒だと、 美味しいと思えた。 僕は彼をじっと見つめた。 ぱくぱくと食べ進める彼。 時々こちらを見てにこっと笑う。 僕はその度に慌てて視線をそらせた。 食べることに没頭する。 「結構おいしいでしょ?学食も・・・」 彼が明るい顔をしてこちらを見ている。 綺麗な笑顔で・・・ 彼は、 なんて綺麗なんだろう。 僕はそんなことを漠然と思いながら、 彼を見つめた。 「おい・・・しい・・・」 それだけを必死に口にしながら・・・ 彼が唐突に僕の顔に手を差し伸べてきた。 びくっと、 僕は震える。 「お弁当ついてるよ。」 にこっと笑って僕の口元についた米を取ると、 ぱくっと口の中に入れた。 僕は頬が熱くなった。 下を向いてやり過ごす。 恋人でも家族でも無いのに・・・ 彼にはこうしたことはなんともないことなのか。 誰に対しても、 こうしたことをするのだろうか。 罪だ・・・ 僕は思った。 「食べ無いの?」 面白そうに彼が僕のお皿を見る。 まだ半分以上残っていた。 彼はもう食べ終えていて・・・ 僕は慌てて、 「いつもパンだけだから・・・もうお腹いっぱい・・・」
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