紫陽花

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ワンルームの部屋。 コンビニ弁当。 それが僕の日常。 そして僕は、 心を病んでいた。 不安精神障害。 それが僕の診断名。 月一回の心療内科の受診、 先生との話、 それだけが唯一の、 僕の人との関わりだった。 世の中に、 僕が居るスペースはあるんだろうか。 僕はいつも考える。 大学に通う電車の中で、 いつも襲う嘔吐の発作。 僕は電車の中で縮こまり、 僕にとって欠かせない飴を舐めながら、 口をハンカチで覆い、 なんとか大学までの道のりを、 辿りついていた。 そんなある日、 いつものように電車で縮こまりながら、 発作を我慢している苦しい僕に、 「大丈夫ですか?」 声が頭上から聞こえた。 それは、 美しい容貌をした、 彼だった。 話しかけて欲しくは無かった。 自分だけの世界に入ってきて欲しくは無かった。 でも彼は、 僕の顔をのぞき込み、 手を差し伸べた。 年は僕と同じくらい、 大学生と思われた。 清廉としたその容貌が、 僕を脅かした。 僕の世界には居ない人、 第一印象はそれだった。 とても凜として背筋が真っ直ぐで、 猫背の僕とは対照的で、 僕は彼を無視した。 電車をすぐに降りる。 僕は嘔吐しそうな気分をはぐらかすために、 また飴を舐めた。
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